現場を知った元公務員が、社会起業家へ。塩尻DAOメンバーからもらう勇気
2022年に東京都の公務員を辞め、長野県南箕輪村の地域おこし協力隊として移住した内田 元也さん。塩尻DAOに参加しながら、社会起業家として社会課題の解決を目指しています。そのなかでアスパラのフードロス解消を目指す、健康食品ブランドを展開。2024年12月からは「信州和漢」という新ブランドをリリースします。
「塩尻DAOでは、多種多様な価値観と出会えますし、頑張っているメンバーが在籍していることに、刺激をもらえます」と内田さん。メンバーと協力して実施したマーケティング調査が、ブランドリニューアルのヒントとなりました。
社会起業家として活動する経緯や、これまでのブランド展開、塩尻DAOに惹かれた理由、地域創生についての思いなどをお伺いしました。
【プロフィール】
うちだ・げんや
1990年、東京生まれ。東京都23区の公務員や映像制作会社、地域おこし協力隊を経て株式会社あぐりぽっぷを創業。移住後、都内には無い魅力的な自然資源が森や畑にあることを知る一方で、未利用資源や活用しきれずに廃棄される現状を知る。世界や他県では有効活用されているなら、長野の廃棄される資源も、「活用できれば喜ぶ人がいる」と考え活動中。活用したいものは山ほどある。着手したい課題もたくさんある。でも1つも解決できてないから、1番最初に驚いた地方の現状に向き合っている。
フードロスの課題解決に向けて、健康食品ブランドをリリース
――なぜ長野県へ移住されて、社会起業家として活動しているのでしょうか?
もともと東京都の職員として働いていましたが、さまざまな分野で社会課題が山積しているのにもかかわらず、自分自身の立場からは課題解決に向けた行動を移せないことに、もどかしさを感じていたからです。
公務員としてできることに限界を感じていて「地方から日本の社会課題解決にチャレンジしている人がいることを知り、自分もそうなりたい。チャレンジしてみたい。」と考えたことから移住を決めました。
―ー健康食品販売をスタートした経緯を教えてください。
移住したばかりの頃、アスパラ農家さんを訪問したことがきっかけです。現場で多くのアスパラが廃棄されている現状を目の当たりにしました。例えば、長いアスパラの茎元はカットされますし、曲がっていれば1本まるまる廃棄されてしまいます。丁寧に育てた野菜でも、廃棄される光景を見て、惜しいことだと感じました。
さらに、費用をかけて捨てていることや、土壌が変わってしまうから本当は捨てたくないと思われていることも知りました。そして、ほかの自治体で規格外のアスパラが有効活用されていることを知り、長野県でもチャレンジしたいと考えました。
例えば、健康に良い食品などに活かせれば必要とする人も多いはず。「フードロスとなっているアスパラを、なんとかできないか」と考えるようになりました。
そこから地元の農家さんや料理家などと協力して、フードロスのアスパラを健康食品に転換する取り組みをスタートしました。サプリメントの開発費用を得るクラウドファンディングでは200万円以上の支援をいただき、社会課題への新しいアプローチに対して、多くの方から関心を向けてもらえたように感じています。
塩尻DAOメンバーと、テストマーケティングを実施
――塩尻DAOに参加した理由を教えてください。
まず塩尻DAOには、塩尻のコミュニティスペースである「スナバ」で出会いました。私がスナバでも活動している理由は、地域全体でインパクトを起こそうとする人々がスナバに集まっているからです。「地域をどう豊かにしようか」「地域の人々が楽しみながら関わり合える場をどう作ろうか」などと考えるマインドを持つ方々に惹かれました。
そして塩尻DAOに参加した大きな理由は、代表の保延さんが熱心に取り組んでいるからです。「頑張っている者同士で連携することが、圧倒的に効率が良くて、効果的」と感じました。
――塩尻DAOメンバーとは、どのような活動をしましたか?
メンバーとイベントに出店して、テストマーケティングを実施しました。開発中の酵素ドリンクを飲んでもらってアンケートに答えてもらうことで、直接お客様の声を聞く機会となりました。アンケートでは「なぜ飲みに来たのか」「健康食品や酵素ドリンクを普段から飲んでいるか」「体のお悩み」「嗜好」などを伺いました。その結果、健康食品には「信頼性」と「安全性」が求められていることが分かりました。
気づきを活かして、ブランドリニューアルへ
――求められるのは「信頼性」「安全性」だと分かりました。その後の商品展開は変わりましたか?
信州のイメージや、古くから信州で食べられてきた食材を活かした商品のリブランディングを決意しました。信州は健康長寿ランキングの上位常連県。豊かな自然の中で育まれた野菜や果物、野草、発酵食品の味噌、そして木曽地域の名産品「すんき」などに含まれる乳酸菌など、栄養価の高い食材に恵まれています。信州は健康食品に求められるイメージに、ぴったりです。
そして2024年12月にスタートする新ブランドは「信州和漢」(しんしゅうわかん)。東洋医学の知見である、人の巡りに注目したブランドです。予防医学や東洋医学の専門家、薬剤師、管理栄養士、漢方アロマのスペシャリストによる監修のもと、サプリメントや酵素ドリンクを提供していく予定となっています。50代以降の健康意識が高い方々をメインターゲットに、信州発の健康食品ブランドとしての確立を目指しています。
塩尻DAOメンバーからもらう勇気
―――今後の展望を教えてください。
今後の目標は「信州和漢」を広めること。まずはサプリメントと酵素ドリンクをあわせて、1年に1万食の販売を目指していきたいです。県外では取り扱っていただけるオーガニックショップが増えていますし、最近では東京のイオンでポップアップストアを出すことができました。まだ県内では取扱店が少ないのですが、ゆくゆくは信州の方にも取り入れてもらって、信州では誰もが知るブランドになりたいです。そして、もともとの目標であったアスパラの廃棄量を、今の100分の1まで削減したいと考えています。
あわせて、信州名産の余剰野菜を使った開発も面白いのかなと思っています。すんき、ブロッコリー、リンゴなどの廃棄されてしまう食材を活用することで、新しい展開が生まれることを期待しています。
――その目標に向けて塩尻DAOに期待することはありますか?
さまざまな背景を持つDAOメンバーが集まることで、多角的な視点を得られることを期待します。異なる知見や価値観を持ち寄ってもらって、活発に話し合うことで、ブランドを拡充するために重要なマーケティング戦略や、今後の取り組み方針を見出していけたらと考えています。
また、地域で連携するプロジェクトは、新しいプロダクトが投下されたときの注目度が高いと思います。メディアにも載せてもらえる機会が多いと感じますし、人の関わりから自然と話題が広がっていくことも期待できます。
正直なところ、健康食品は共感を得にくく、時には怪しい印象を持たれがちです。しかしDAOメンバーには、健康食品としてのアウトプットだけでなく、その背景にある「フードロスをなくし、地域に貢献したい」という想いまで見てもらえています。塩尻DAOには”想い”を伝える機会があるので、共感から協力が生まれていると感じます。イベント出店では、なかなかお客様に反応をもらえず苦戦した部分もあったのですが、DAOメンバーと一緒に頑張れたことで勇気をもらいました。
――DAOメンバーの存在が励みになったのですね。
そうですね。私は引き続き、”想い”を伝え続ける必要があります。そして、”想い”に行動を伴わせて進めていくことで、さらに多くの方からの共感を得られるのではないかと感じています。
信州の食材はまだまだ可能性を秘めていて、日本だけでなく世界へと進出できる力があると信じています。長寿の国と知られる日本人の、健康を支える食材が信州にあるんです。その可能性を探る取り組みが、地方創生につながっていくと感じています。
(取材・構成/竹中 唯)
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