「関係人口」と「地域事業者」がマッチングできる「塩尻(Shiojiri) DAO」がスタート。あらゆる場所で挑戦が盛んに生まれる塩尻へ
現在、塩尻は日本全国からたくさんの関係人口に関わっていただけるようになりました。しかし関係人口の方々にとっては、地域のニーズを理解して自身の役割を自主的に見つけてもらうことが難しかったり、一歩踏み出すきっかけを得てもらいづらかったりという状況があり「もっと塩尻に関わりたいけど、関われない」という声が多いことも事実です。それに対して、受け入れる地域側の人材マッチングや、情報発信にさけるリソースも不足していて、十分なサポートが難しくなっています。
その課題解決方法として構想されたのが非代替性トークン(Non Fungible token : NFT)という技術を活用した自律分散型オンラインコミュニティ(DAO)の立ち上げプロジェクト。テックチームの主導役として活動するのが片山憲さんです。「塩尻のDAOコミュニティは、信頼を可視化できるような仕組みにしたい」と意気込みます。
関係人口と地域事業者が自主的につながる「塩尻DAO(しおじりダオ)」についての詳細や、片山さんの新しい挑戦について話を伺いました。
【プロフィール】
かたやま・けん
2001年アメリカ・シカゴ生まれ。小学校入学とともに日本に帰国。現在は信州大学院総合理工学研究科環境土木専攻に所属し、スマホやPCなどの光と電気を使うデバイスに広く使われている汎用電子材料である透明導電膜について研究中。2023年3月〜2024年2月マレーシア・マラヤ大学交換留学生。マラヤ大学では経済と経営を専攻するうちにDAOに興味を持ちNishikigoi NFTを購入し、ネオ山古志村に参加。その後、Henkaku Discord Coummunityに参加し、日々web3の知識を学んでいる。信州大学でDAOを作ることも目標としている。
Web3「DAO」の特徴を生かした塩尻独自のオンラインコミュニティ
――塩尻でおこなっている片山さんの活動について教えてください。
NFTという技術を活用した、塩尻にまつわる人々の自律分散型のオンラインコミュニティ「塩尻DAO」の立ち上げプロジェクトに、テックチームのリーダーとして2023年の8️月から参加しています。
「塩尻DAO」とは、関係人口が短期的な塩尻のプロジェクト活動を終了させた後にも、より持続的に繋がりを維持できるようなコミュニティです。地域に関わる「関係人口」と関係人口を受け入れる「地域事業者」との自主的で持続可能な共創関係をつくることを目指します。
そもそもDAOとは「Decentralized Autonomous Organization」の略で「自律分散型組織」を意味します。特定の管理者が不在でも、メンバーが自主的に事業やプロジェクトが推進できる組織であり、誰でも参加できるサークルのような関係性があります。オンライン上で「関係人口」や「地域事業者」がチャットで交流を深めていくうちに、プロジェクトが自主的にスタートしていくことが理想です。
▼参考としたDAOを用いた地域活性化の先行事例:
―――なぜ、塩尻のDAOの立ち上げプロジェクトに興味を持っていただいたのですか?
僕は2023年3月から2024年2月にマレーシア・マラヤ大学へ留学していました。留学中、経営やマーケティング、コミュニティ醸成を学びながらマレーシアの文化に触れるうちにDAOなどのweb3の世界に興味を持つようになりました。資本主義というのは、基本的に“お金を持っている人が勝ち“のようなイメージがあると思いますが、資本主義のレールから外れた価値をDAOを利用して見出していきたいと感じたのです。
マレーシアに住む人々の、みんなでゆったり会話を楽しんで過ごす生活スタイルや、金曜日の午後はほとんど休みにしてお祈りする文化、おおらかな人柄などを見ていると、最終的には僕もこんなゆったり過ごす生活をしたいと思いました。
一方で、マラヤ大学では交換留学生をサポートする組織(UM Global Buddies)があり、留学生に対してローカルの学生が無償で留学生活をサポートしてくれるのですが、このローカルの学生はボランティアなのでお金をもらっていないことに気付きました。
その人々はとても優しく、友達を紹介してくれたり一緒にマレーシアを観光してくれたりして感謝しかありません。このようなボランティアでサポートをしてくれる人に対して報酬を多少なりとも渡したいと思うようになりました。そんななか留学中の授業は、DAOの基本の考えとなるような学びもあり、例えば「ボランティアや地域事業などで得られる信頼や自主性など、お金以外で成り立つ活動をアップデートしていくとどうなるのか」などを考えるようにもなりました。
DAOの世界を知ってハマっていくうちに、大学の後輩がすでに塩尻で活動をしていたことから、このDAOプロジェクトを紹介してもらい、参加したいと思いました。
小さなことから大きなことまで。何かが生まれるコミュニティを目指す
―――「塩尻DAO」がスタートするのは2024年の春夏ごろとのこと。参加者に向けて、これからどのような働きかけがされるのでしょうか?
「塩尻DAO」のなかで地域事業者さんと関係人口を、できるだけ数多くマッチングしたいと思っているので、多くの方に参加してもらえるように働きかけたいと思っています。そのためにも、まずはオフラインの活動やイベントは、定期的におこないます。塩尻に数多く訪問して、運営チームの活動主旨や地域を盛り上げたいという気持ちを、対話しながら大切に伝えていきたいと考えています。
「関係人口」と「地域事業者」の共創関係ができる自律型コミュニティといっても、初期のマッチングには運営チームの介在が不可欠です。また、交流においてはチャットアプリに慣れてもらわなくてはいけませんのでフォローしていくつもりです。なにもわからないという方であっても興味があれば、ぜひ気軽に参加してほしいです。
▼コミュニティ内の交流はDiscordというチャットアプリを通じて行われる:
――「塩尻DAO」を通して、塩尻でなにが起こることを期待していますか?
DAOという全員が平等なコミュニティのなかで、お互いにとって新しい挑戦ができたり、成長できたりする機会になってほしいですね。関係人口側にとっては、マッチングを通じて成長して繋がりを持続できる機会として活用してほしいですし、一方で地域事業者さんにとっては、人口減少が進んでいく地方であっても、人的資本をもとに新しい挑戦ができる機会として捉えてもらいたいです。
そして今までにあった関係人口プロジェクトの場合、売り上げ増大や人手集めというところがゴールとして大きかったと思いますが、「塩尻DAO」においてはゴールが多様にあるべきだと思っています。
地域の伝統行事へ参加するためのコミュニティや、事業者の新商品の試食会コミュニティ、ただただ話したいという人が集まるコミュニティなど、ゴールは小さいものから大きいものまで生まれていくのが理想です。雑談みたいなたわいもない話が、コミュニティをより熟成させてくれると思っているので、どんなチャットにおいても盛り上がりを期待しています。
―――DAOにおいて、「関係人口」と「地域事業者」によって何かが生まれていくことを理想とできるのは、「塩尻DAO」が持つ特異な部分かもしれませんね。
日本の地方創生DAOにおいて、地域事業者さんを巻き込むというのは今回初めての試みです。僕は「塩尻DAO」は実証実験だと思っています。この事例が成功し、塩尻がほかの地域のロールモデルとなり「塩尻DAO」を横展開できると嬉しいです。
「DAO」の可能性がモチベーション
―――まだまだ世間には知られていないDAOの世界。片山さんが抱くDAOへの期待を教えてください。
DAOにはさまざまな可能性があると思っていて、それが僕のモチベーションにもなっています。
例えば「塩尻DAO」のチームで思案するのは、信頼を可視化することです。関係人口の数名にヒアリングしたところ、例えば地域Aで活動してノウハウや信頼を得たとしても、地域Bに行けば再度ゼロからのスタートになってしまうのが、精神的につらいという意見がありました。
もちろん人と人の信頼の部分は新たに積み上げることが必要となりますが、地域Aで得たノウハウや実績というのは、相当な熱量やコストを注いできたものであり、ほかの地域でも活かせる潜在的な力となります。それをDAOやNFTの技術を応用することで全国的に可視化できるようにして、塩尻を起点として広げていけたらいいなと考えています。
また大きなところで言えば、日本のコンテンツにおいてDAOやNFTを活かせると思っています。僕がマレーシア留学をしていちばんびっくりしたことのなかのひとつが、出会った人がみんな日本のゲームやアニメ、漫画などのコンテンツについてとても詳しいことでした。僕は日本人なのに質問されても答えられないことが多く、情けないと感じたほどです。
DAOやNFTの技術を使ってコンテンツを再発信することで、リブランディングや価値の再評価につながる可能性を感じています。ほかにも人口減少する日本の地域のインフラや、環境問題の解決手段においても、DAOやNFTがうまくコントロールできる手段になりうると思っています。
挑戦の場として、塩尻の雰囲気
―――新しいDAOを立ち上げる塩尻は、挑戦の場としていかがでしょうか。
僕は千葉県で育ちましたが、小さい頃から長野県にはよく訪れていて、地方には興味があり、僕がやりたいことのひとつとして、地域活性化や地方創生のための活動がありました。このような新しい挑戦を0からスタートさせてもらえる塩尻の環境は、とてもありがたいです。塩尻では新しい挑戦を応援してくれる雰囲気があり、塩尻の方やチームメンバーから支えてもらえているからこそ僕は頑張れているのだと思います。意見も活発に交換できて、議論はとても盛り上がります。
また、先述したようにDAOは分散型組織であり、意思決定は基本的に民主主義の多数決でおこなわれる世界ではあるのですが、ローンチまでの活動においては、時には中央集権的に誰かが旗を振る必要があることを実感しました。僕はインターンシップなどの経験もなく、このような活動は初めてでしたが、テクノロジー部門のリーダを任せていただけたからこそ得られた経験がたくさんあります。
―――自律分散型コミュニティである「塩尻DAO」は、これから片山さんたちがつくっていくものです。しかし片山さんの周りは、すでにそのようなコミュニティが生まれているようですね。
僕もそう感じていますね。塩尻自体の雰囲気が、実はもうすでにオフライン上のDAOなのではないでしょうか。それでも「塩尻DAO」をつくるという新しい挑戦をする人がいて、その挑戦を応援する人がいる塩尻という姿は、塩尻らしくていいなと思います。
(取材・構成/竹中 唯)
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