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”外の人”と協働することで、想定していたよりずっと遠くまで行けることもある~持続可能なアーティストインレジデンス事業の構築~

こんにちは。のりしお編集部です。

地方では、地域課題の複雑化とその解決を担う人材の不足が叫ばれる一方で、都市部では、企業の副業解禁の流れに後押しされ「地方副業」に関心をもつ方が増えています。

この両者のニーズをマッチングすることで地域課題の解決を図ろうという取組みが、塩尻市で2020年にはじまった塩尻市・関係人口創出事業です。

他の自治体でも同様の取り組みは増えてきていますが、塩尻市の取り組みの大きな特徴は、課題解決だけでなく、課題を掘り起こし明確化していくプロセス自体を「塩尻CxO Lab」という首都圏の人材から成るオンラインコミュニティメンバー、つまり、”外の人”の力を借りて行う点です。

「早く行くなら一人で、遠くに行くならみんなで。」

アフリカのことわざ

気心の知れた内輪のメンバー同士なら、「言わなくてもわかる」の阿吽の呼吸で物事が早く進むかもしれないけれど、”外の人”が加われば、思いがけない化学変化が生じて、想定していたよりずっと遠くまで行けることもある。

今回は、昨年度の塩尻市・関係人口創出事業に地域プレーヤーとして参加した、塩尻アーティストインレジデンス実行委員の岩佐岳仙さんに、そんな”外の人”と協働することで生まれた化学変化についてお話をお聞きしました。

地域で自走しながら持続していく方法を見つけたくて、プロジェクトに参加

ーーまず始めに、塩尻アーティストインレジデンス(以下、塩尻AIR)とはどんな取組なのか、おしえてください。

アーティストインレジデンスは、アーティストが一定期間ある地域に滞在し、その土地の文化や歴史に触れたり、現地の人々と交流しながら制作活動やリサーチ活動を行う取組みです。

塩尻AIRは、2020年にANAホールディングスと塩尻市、三原市、鳥取市の3地域の協働事業としてスタートしました。
2年目となる昨年の夏には、4名のアーティストが塩尻に滞在しました。コロナの影響で中心になってしまいましたが、1月にはアートワーケーションプログラムとして参加者を募ってワーケーションツアーも組まれる予定でした。

▼ANA meets ART "COM":https://www.ana.co.jp/ja/jp/domestic/promotions/ana_art_com/

ーー今回の取組みに参加するにあたって、どんな課題感があったのでしょうか?

今年で2年目となるのですが、事業が助成金だのみで、運営チームも数名しかおらず、できることが限られているという課題感がありました。今後、組織として持続的に運営できるモデルをつくっていく方法を見出したいと思い、参加しました。

塩尻アーティストインレジデンス実行委員 岩佐さん

壁打ちや選考過程を経て、自分たちの現在地に気付く

ーーオンラインコミュニティ「塩尻CxO Lab」のメンバーと1カ月間かけて課題を明確化するための「仕様書」作成に取り組んだなかで、当初の目的に変化は生じましたか?

地域で自走しながら持続していく方法を見つけたい、という当初の目的自体は変わってないです。ただ、当初は、具体的に何をすればよいか、副業で手伝っていただく方にどう動いてもらいたいかが見えていない状態でした。

塩尻CxOLabのメンバーに壁打ちしてもらいながら仕様書を作成する中で、持続していくためには、塩尻AIRに対して運営者、地域の方が共通理解をもつことが必要で、そのために、まずは”塩尻AIRとはこういうものだ”、地域にとってこんな良い効果がある、というような取扱説明書みたいなものがつくれたらいいね、という話になって。
そのために、受け入れ側の地域の人や、参加してもらったアーティストの声を集めることをやってみればどうかということになり、こんな人に来てもらいたいというのが固まっていきました。

塩尻CxOLabメンバーと「仕様書」作成のためのミーティングの様子

ーー副業人材の募集には、たくさんの方が応募してくださり、選考に苦労されたとお聞きしました。

本当に、良い意味で予想外でした。応募してくれた方々は、みなさん、最初想定していた以上に多才で多様でした。

当初考えていたように、収益化や運営面で実質的なアドバイスをしてもらえるような方もいらっしゃいましたが、最終的に、今のフェーズで一緒に動いていただくにはどんな方が良いか、という観点から選びました。

選考のプロセスで色々な方にお話をうかがう中で、自分たちが今どんなフェーズにあり、何が必要かを見つめ直し、明確化することができたように思います。

また、今回、オランダ在住の方にお手伝いいただくことになったんですが、当初は日本におけるAIRという枠組みで考えていたのが、「世界ではこうだよ」、とアドバイス下さる方が応募してきてくれたわけです。
良い意味で、当初よりもやりたいことが広がったという風にも思います。

▼副業人材の募集記事:

ーー最終的に、オランダ在住のグラフィックデザイナー・アーティストのヒロイさん、岩手県遠野に移住しお土産ブランドの立ち上げなどに携わっていらっしゃった岸本さんのお2人に副業で関わっていただくことになったわけですが、リモートでの協働は具体的にどのように進んだのですか?

最初の1カ月くらいは、週一ペースでオンラインでミーティングを行い、そもそも塩尻AIRってなに?どんな人に届けたいの?というようなインプットをして、想いを共有することに費やしました。
その後実際にオンラインで現地のアーティストや関係者へのインタビューを行っていただき、1月には2人に塩尻に来てもらい、数日間滞在してもらいました。

ーープロジェクトを通して、どんな成果が得られましたか?

インタビューを踏まえて、塩尻にとって塩尻AIRってどういう位置づけなのか?というところを外部から来た人の目線で把握してもらい、課題感を提言してもらいました。

ーー課題感とは?
地域の人に認知されていないことです。知らない間にはじまって知らない間に終わっている。逆に地域外のアート界隈の人は知っていたりするんですが。
今後のアクションとして、認知向上に向けて、インタビュー記事の掲載や、タブロイド紙の制作などをおこなっていこうと思っています。

また、AIRを行うにあたってのチェックリストを作成いただきました。
チェックリストで自分たちが何が必要で何が足りてないか、現在地がわかり、主催者側が気にとめるべき事項の整理にもなりました。

副業人材との共創でうまれた新たなアイデア

あとは、成果というか、当初想定していた目的とは違うんですが、副業の方に塩尻に来てもらって、インタビューしてもらったということ自体がアーティストインレジデンスの一部だなあと感じていて。

1月に予定されていたワーケーションツアーはコロナの影響で中止になってしまいましたが、ご本人たちと相談して、塩尻に来てもらい、数日間滞在してもらって街を見たり、スナバで地域の人と交流していただく機会をもっていただくことができました。

実際に塩尻に滞在して、リサーチする中でアイデアや気付きを得てインタビューというアウトプットにまとめていただく・・・アウトプットの形は違えど、滞在して作品を制作するアーティストの方と同じプロセスをたどるという意味で、お二人にはリサーチャーとして塩尻AIRに参画してもらったと言えると思います。

塩尻の風景

お二人に来ていただいたことで、新しくやってみたいことも見えてきました。
アーティストの方だけでなく、お二人のような方にキュレーターとして滞在してもらって、どんなアーティストに来てもらえばよいか、企画から一緒にやっていければいいな、というようなことです。

ヒロイさんが、オランダで実際にそういう動きをしている場所があると教えて下さったんです。実際に副業のお二人と一緒に動いてみて、こういう方に実際に塩尻に滞在してもらって、こんな作家さんをまきこんで、こんな場所でこんなことやろうというのを企画していける・・・というように、新しい可能性を感じました。

良い意味で、予定調和じゃないプロジェクトだった

最初からこんな課題を解決しようと決めてその通りに実行したというよりは、フェーズごとに新しい発見があって、変わっていき、広がっていったプロジェクトだったと思います。
良い意味で、予定調和じゃないプロジェクトでした。

僕はシビック・イノベーション拠点「スナバ」のスタッフでもあるんですが、実際やってみたら最初の予定とは違う発見があって、それはそれで面白いよなという感じで進むのが、スナバっぽい、塩尻っぽいと感じました。

シビック・イノベーション拠点「スナバ」

スナバでは、場を開き、場が開かれているということを伝えて、想いを持った人が入ってきて勝手にことを起こす、みたいな未来をつくれないかと話しています。

例えば塩尻AIRでも、アーティストじゃなくても、企画するのに想いがある人が来て、自分のやりたい企画を実現するみたいな関わり方をするのも面白い。
自分のホームベースである東京でやるのと、塩尻のような別の場所に滞在=”レジデンス”しながらやるというのはまた違う意味合いがあると思うんです。

人との出会い、新しい気付き・・・”外の人”との関わりを通じて自分の中でいろんな発見があったことが最大の収穫だった

ーー今後参加を検討している地域プレーヤーの方へのメッセージをお願いします。

当初は、課題を解決するために副業人材を採用するというのが目的だったけれど、終わってみると、自分の中でいろんな発見があったことが最大の収穫だったと思います。

課題は3カ月で解決しないかもしれないけど、そこを目的としなくても、人との出会いであったり、新しい気付きが得られたり。

地域にいると、周りの人たちは知ってる前提で、言わなくてもわかるよ、でものごとが進みがちです。”外の人”には、自分がちゃんと説明するために言語化しないと伝わらないし、良い意味でも悪い意味でもフラットなものの見方をしてくれる。その中で得られるものは大きいと思います。

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2022年7月30日まで第三期メンバーを募集しています!