“できない”と声をあげることで人材がつながる。3年間参加して感じた塩尻カルチャー
愛知県庁に勤める山肥田徳文さんには「塩尻CxO Lab」に3年連続でご参加いただいています。塩尻にまつわるイベントへの参加率も高く、関係人口のベテランと言っても過言ではありません。今年は塩尻で行う新しいスポーツ大会を企画すべく、ご参加いただいています。
3年前に初めて参加したキッカケは「副業・兼業人材を活用する仕組みが気になったから」。2026年に愛知・名古屋で開催する「アジア競技大会」などで、その仕組みを活用できるかもしれないと考えたそうです。
参加する中で感じたのは「塩尻市役所の方々は、まだ何も方向性が決まっていない早い段階から、外部の人材に対して地域課題などを共有し、市役所の職員だけではできないことを“できない”と伝えて、外部から人材を受け入れることができる。その度量を持っている自治体は少ないのではないか」ということ。3年間で感じたこと、これからの塩尻との関わりなどについて伺いました。
【プロフィール】
やまひだ・とくぶん
愛知県スポーツ局スポーツ振興課長。1967年、愛知県生まれ、55歳。愛知大学法経学部法学科卒業。
1990年、愛知県庁に入庁。これまでに、東海北陸自動車道の用地買収や中部国際空港の漁業補償、愛知県の総合計画や分野別計画(三河山間地域・IT・東三河など)の策定、スポーツ大会を活かした地域活性化を担当。
関与したスポーツ大会は、アジア競技大会、アジアパラ競技大会、名古屋ウィメンズマラソン、木曽三川ウルトラマラソン、奥三河パワートレイル、アイアンマン70.3セントレア知多半島ジャパン、ISUグランプリファイナル、FIA世界ラリー選手権ラリージャパン、新城ラリーなど多数。プライベートの活動として、超高層ビルやタワーを駆け上がるバーティカルランニング大会の企画運営にも中心的な立場で関与。
兼業・副業人材を、集める、活用する仕組みを知りたい
――塩尻との出会いを教えてください。
兼業・副業人材に、地域課題の解決策の検討や具体化に参加してもらう仕組みに興味を持ったことから塩尻CxO Labに参加しました。
私は、愛知県庁に勤務していて、全国・世界に打ち出せるスポーツ大会を招致・育成し、地域活性化につなげる「スポーツ局」に所属しています。当時は、その中の「アジア競技大会推進課」に在籍していました。2026年に愛知・名古屋で開催する「アジア競技大会」を見据えた部署です。
アジア競技大会は、オリンピックのアジア版とも言われており、オリンピックより多くの競技を行います。基本的に国際的なスポーツ大会の運営ノウハウは、自治体の専門分野ではないことがほとんどなので、私たちだけでの開催には限界があります。
そのため、オリンピックを始めとする国際的な大会の運営ノウハウを持つ人材が必要なのですが、そのようなノウハウを持つ方は、東京オリンピックに携わった方が多く、東京に住んでいる場合が多いんです。
そのため、東京オリンピックで運営を担った方に愛知に引っ越してもらい、こちらのアジア競技大会の組織委員会で働いてもらっている方もいらっしゃいます。
しかし、東京で働いている方が愛知県に引っ越すことは、生活や仕事上の都合もあって、なかなかハードルが高い。そのため、兼業・副業、あるいはプロボノなどの形で、リモートでサポートいただけるような仕組みを作れないかと思っていたところ塩尻CxO Labを見つけて、仕組みを勉強するために参加させてもらいました。
参加したのは仕事における理由が主ですが、完全にプライベートの時間を使って、自分の意志で参加しています。
――塩尻CxO Labとは、塩尻の関係人口を創出するオンラインコミュニティ。塩尻以外に住む方が、塩尻の自治体や企業とつながって、兼業・副業人材として参加するものです。
2026年の「アジア競技大会」に、兼業・副業人材が参加する可能性があるということでしょうか?
現在はアジア競技大会推進課からスポーツ振興課に異動しており、アジア競技大会以外の国際的なスポーツ大会を招致・育成する担当をしています。アジア競技大会を含め国際的な大会を運営するには、ノウハウを持つ多くの人材が不可欠ですので、何らかの形で関わってもらう必要があり、兼業・副業やプロボノは、その手法として有効だと思っています。
「手伝ってほしい」と伝えられる心構え
――もしアジア競技大会などに兼業・副業人材を受け入れる場合、山肥田さんが活動した塩尻の事例を元に、兼業・副業人材に活躍してもらう仕組みを作ることになるのでしょうか?
塩尻CxO Labに参加してみて分かったのは、仕組みを適切に作り上げれば、兼業・副業でちゃんとプロジェクトが回ること。それをリアルに実感できてよかったです。
しかし兼業・副業人材に活躍してもらうためには「自治体側に外部人材を受け入れる度量があること」が、重要ポイントだと思いました。
――外部人材を受け入れる度量とは、どのようなものでしょうか?
塩尻市役所の方々は、0からサポートしてもらう前提で外部人材を受け入れ、任せることができています。「できないから手伝ってほしい」ということを伝えて、頼むことができるんです。
自治体において、何も決まっていない早い段階から、外部の方々と課題となっていることを共有し、自分たちにできないことを「できない」と明確にしてサポートを募ることは、意外と難しい気がします。
さらに、民間への委託ではなく、兼業・副業という形で参加する外部人材と自治体職員が、一緒になって取り組むということにも、慣れていません。
自治体において、兼業・副業という形で外部人材に課題解決やサポートを依頼することになるのなら、この依頼する能力はとても大事だと思います。
3年間塩尻に携わってきて、優秀な外部人材の方にたくさん出会いました。地域に関わりたいと思う優秀な方はたくさんいるのだけれども、これらの方々の活かすことができる受け入れ側の自治体が少ないような気はしますね。塩尻の受け入れる能力、任せる能力にはカルチャーショックを受けました。
勉強の2年間。これからは恩返しへ
――山肥田さんは、3年間どのような活動に参加してきたのでしょうか?
塩尻CxO Labには2020年の1期目から関わってきて、1期目は具体的なプロジェクトに入らず、週1回ほどのミーティングに出ていました。
プロジェクトに参加したのは、2021年の2期目「塩尻アーティスト・イン・レジデンス」の仕様書作りです。また、これまでに塩尻へ6回ほど足を運んで、雰囲気も分かりました。
▼「塩尻アーティスト・イン・レジデンス」についてはこちらの記事もご覧ください:
ほかにも塩尻で行われる勉強になりそうなイベントには、オンライン・オフライン問わず、積極的に参加していますね。
印象的だったのは塩尻で行われた武蔵野大学アントレプレナーシップ学部のフィールドワーク。塩尻に関する新たなビジネスを生み出す合宿に、お願いして同行させていただきました。塩尻のことを学生に知ってもらうための案内の仕方やワークショップの進め方など、学びが多かったですし、適切に鍛えられると、こんなに学生の能力が伸びるんだと実感させられました。
――今後、山肥田さんの塩尻での活動はどのようになっていくのでしょうか?
最初の2年間は勉強させてもらう意味合いが強かったのですが、3期目となる今年の塩尻CxO Labは、お世話になった2年間の恩返しのために参加しています。
現在はコロナ禍を機になくなってしまった「塩尻ぶどうの里ロードレース」の代わりとなる新たなスポーツ大会の企画に参加しています。塩尻の観光資源や地理的条件を活かした上で、いろんな方の想いを集約したイベント開催ができたら嬉しいです。
開催時期はまだ明確になっていませんが、開催までお手伝いしていきたいし、ほかにも、イベントがあったら分野に限らず参加して、勉強に繋げていきたいですね。
(取材・構成/竹中 唯)
▼塩尻CxO Labについてはこちら:
▼過去の「のりしおな人」はこちらから: