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楽しさを見出し、挑戦の場をつくる秘訣は、地域への主体性

塩尻駅の改札を出て、東階段を降りた中二階の一角。2022年6月にワインバー「アイマニSHIOJIRI(以下アイマニ)」がオープンしました。
ぶどうの産地である塩尻が誇るワイナリーが醸した、こだわりワインを楽しめます。

店舗の工事設計をボランティアで担当したのは、JR東日本に務める西宮竜也さん。アイマニ事業者である地域ベンチャー企業と、オープンに向けて、会社の枠を超えた個人の活動として協働しました。
「会社としてではなく、自分ごととしてお手伝いした結果、店舗を形にできたことは自信につながりました。本業にも、いい影響がありました」と西宮さん。

「副業人材や関係人口の方々が、ワインを片手に集まれる場所が、塩尻にあればいいと思っていました」という西宮さんが、塩尻と出会ったのは2019年。そこから塩尻に深く関わっていった経緯や、得られたもの、本業への影響について聞きました。(取材日:2022年6月22日)

【プロフィール】
ニシノミヤ・タツヤ
東日本旅客鉄道株式会社に勤務。2020年、長野支社赴任時に塩尻CxO Labにて「あずさ沿線のテレワーク施設をハブとした関係人口創出プロジェクト」のテーマオーナーとして参加。その後も塩尻との関係を絶やさず、塩尻市のベンチャー企業「HYAKUSHO」が手掛ける「塩尻ワインサークル」のコミュニティヴィンヤード(ぶどう園)のヴィンヤード長を務める。2022年6月より本社(新宿)へ。

会社に依存しない、自分のスキルを確認できた

ーー駅にオープンしたアイマニの工事設計に携わってみて、いかがでしたか?

東階段を降りた中二階の一角にできた「アイマニSHIOJIRI」

今回、自分のスキルの確認になるようなフィールドを与えてもらえて、めちゃくちゃありがたかったです。
僕は建築士免許を持っているので、図面作成や、役所への申請から手続き、工事業者との調整などを引き受けました。
免許は持っていますが、建築士事務所にいるわけではありませんので、普段はこのような仕事はしていません。今回の仕事ができたことによって、自分のスキルに自信がつきました。

アイマニの事業者は、地域の農家さんの課題解決をミッションとする、塩尻市のベンチャー企業「HYAKUSHO」。
代表の田中さんや、フリーランスのデザイナーの方たちと、お店をつくっていきました。各プロフェッショナルがいろんなところから集まってプロジェクトを推進することは、これからの時代は多くなると思っているので、いい経験を積めました。

ーー力を入れて協働できたのは、塩尻と深い関係があるからでしょうか。これまでの、塩尻との関わりを教えていただけますか?

塩尻との出会いは2019年。会社を通じて、塩尻市職員であった山田崇さんと話す機会があり、「関係人口を作れるような、鉄道沿線の施設を用いたワーケーションの場を提供したい」と意気投合して、プロジェクトを始めたんです。
各地のコワーキングスペースのオーナーたちとイベントを開いたり、情報交換をしたりするなかで、HYAKUSHOの田中さんに出会ったのも、この頃です。

そして2020年、塩尻CxO Labが始まり、JR東日本として参加し「あずさ沿線のテレワーク施設をハブとした関係人口創出プロジェクト」の課題を掲げるテーマオーナーとなりました。
ワーケーション実現に向けて本格的に動くために、チーム力を強化して、外部の意見を聞くために、関係人口となる副業人材を募集したんです。

この副業人材募集へ、20人ほどの方々から応募いただきました。応募理由を聞くと、「地域と関わるきっかけがほしい、地域との強いかかわりがほしい、でもどうしたらいいかわからない」というものが、非常に多かったことが印象的でした。

▼日本仕事百貨に掲載された副業人材募集記事:

それらの意見をプロジェクトに反映しながら議論を進めることで、「地域に何度でも来たくなり、地域の方と関係性を作れるようなツアーやイベントを、ワーケーション利用者に向けて開催しよう」と大筋が決まっていきました。

東京では普段出会えないような、地域で活躍する人々に出会えることで、地域ごとで関係人口を取り合う必要がないくらい、あずさ沿線地域の魅力をお届けできたらと思っていました。しかし、残念ながらコロナ禍でなかなか足を運んでもらうことができず、もどかしく思うこともありました。

▼「あずさ沿線のテレワーク施設をハブとした関係人口創出プロジェクト」メディア掲載記事:

自分の楽しみが続くように、主体的に動ける役割を探す

ーー塩尻CxO Labのプロジェクトが終了しても、西宮さんと塩尻の関係は続いていきました。現在、西宮さんは「塩尻ワインサークル」のコミュニティヴィンヤード(ぶどう園)のヴィンヤード長を務めています。

塩尻では、いろんな方と出会えましたし、いろんなプロジェクトの立ち上げも見られました。
僕は塩尻CxO Labを走らせながらも、田中さんが立ち上げた「塩尻ワインサークル」のお手伝いをしていました。0からワイン醸造を目指すコミュニティヴィンヤード(ぶどう園)のクラウドファンディングの企画も行いました。

▼コミュニティヴィンヤードのクラウドファンディング:

無事にクラウドファンディングが達成した後は、自分に役割がない期間があったのですが、その時は「まだまだ関わり続けたい、そのために主体的に携われる明確な役割が欲しい」と強く思うキッカケになりました。
このままでは、打ち合わせに出て、責任なく意見を言うだけの”うるさいおっさん”になってしまう危機感があったんですね(笑)。

そんな時に、コミュニティメンバーが畑で作業する時の調整役や、まとめ役が必要だという話が出て、長野にいる僕が担当するべきだと思い、ヴィンヤード長を引き受けました。
3年後のワイン醸造に向けて、この春には、ぶどうの苗をコミュニティメンバーで植えました。今後が楽しみですね。

コミュニティヴィンヤードでの作業の様子

ーー西宮さんが出会った方々とのプロジェクトに対して、主体的に動ける役割を望んでいったのですね?

僕は、メンバーとプロジェクトを楽しく続けたいから、それが可能になる環境を作っていきたい。そのためにも、自分が主体的になれる役割や責任を持っていたいですね。
そうしないと、自分が参加する意味を見出せなくて辛い。そして、みんなが忙しいときに手伝えるような存在でいないとダメかなって思います。

いつの間にか地域の方と繋がりが切れてしまうことで、これまでの頑張りが報われていないのではないかと虚しさを感じてしまうくらいだったら、忙しい地域の方の代わりに、自分から働きかけられる役割を持つのがいいと思います。

本業にもプラスになった「アイマニ」プロジェクト

ーーHYAKUSHOに出店を提案したのは、西宮さんなんですね?

僕はお酒が好きですし、特産品であるワインを広めたいという思いもあって、ワインの情報発信基地みたいなものが、塩尻駅にあればいいなぁと思っていました。昨年の秋にテナントが空いたところで、田中さんに打診したんです。

ワインサークルは、これまで塩尻市の関係人口を創出しているので、地域の玄関口である駅との相乗効果を出せると思いました。
そしてHYAKUSHOは、地域の全17のワイナリーと連携しているのが強みです。サークルメンバーだけでなく観光客にも、楽しさや地域の魅力を発信できると考えました。
それらは、僕自身の想いだけでなく、JRが推進する理由としても十分です。

年明け1月ぐらいから準備して、半年ほどで開業となりました。いいスピード感で進められたかなと思います。

ーーJRにも、プラスの影響は現れたのでしょうか?

これまで駅構内のテナント誘致は、JRのグループ会社や、地域の観光案内所、市の観光課などと一緒に推進することが多かったのです。
地域の事業者、ましてやベンチャー企業との直接契約はあまりなかったので、JRにとっても、新しい事例となりました。

実はこれが、僕がずっと社内でやりたかったこと。駅に適したコンテンツを、地域の事業者と一緒にテナントから提供することです。
会社としても、チャレンジとなりましたし、社内でもかなり評価してもらえました。

今後、全国いろんなところに、このような取り組みを広げていきたいと思っています。

人を通じて動いていくと、楽しみが生まれていく。

ーー塩尻のプロジェクトは、西宮さんにとって、どのような価値があるのでしょうか?

人生や地域、人とのつきあいなどを、楽しむキッカケって感じですかね。
僕は、ずっと人を起点にして動いているのですが、出会った人やプロジェクトの数だけ、新しいことにどんどん出会えるし、その数だけ幸せも広がっている感じです。

地域で頑張る方々と、ご一緒できるのは楽しいですよね。その場にいたら飲み会にもついていけますし(笑)。
いろいろ楽しみながら、飲みながら、もっと何かやろうと盛り上がっていくこともあって刺激的です。

「何をやっているのか」と問われるんですけど、まだピンと来る言葉を返せていないですね。
遊びではないのだけれど、遊んでいる感じもする。ボランティアという呼び名もしっくりこない。
仕事のように真剣に本気で挑んでいるのに、本業よりも、どこか緩さみたいなものがあるんですよね。こういう地域や人との関わり方も、いいものだなと思っています。

ーー今後、西宮さんの塩尻との関わりは、どのようなものになっていくのでしょうか。

この夏より勤務先が東京になり、長野県から離れましたが、ヴィンヤード長として、引き続きこれからも畑に立ち続けていきます。転勤は想定していたので、転勤前に軸足を置ける場所を作れてよかったです。
プロジェクトと物理的距離があいても、東京側にいる伴走者として、どのくらいやれるのかというところは、改めてチャレンジだと思います。

今後も畑を耕し続けながら、塩尻に集まる皆さんと、関係を深めていきたいですね。

(取材・構成/竹中 唯)

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