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「カオスだから」選んだ塩尻。「会わせたい人が、たくさんいるホーム」

2020年2月から2023年5月2日までの期間、滞在したのは全国101拠点。“多拠点アドレスホッパー”をしているのは、西出裕貴さん(以下、にっしー)。もちろん、家はありません。

刺激的な暮らしを満喫してきたものの、いつしか感じたのは、“ホーム”のない寂しさ。2022年夏から“ホーム”として選んだのが塩尻です。
ほかの地域への滞在も続けていますが、軸足は塩尻に置いています。

いつしか任されたのは、塩尻の空き家活用[en.to]プロジェクト。現在はクラウドファンディングを先頭に立って進めます。
「ふらっと来たアドレスホッパーに、地域の根幹となるプロジェクトのクラファン責任者を任せるなんて。信じられる?」と、笑うにっしー。「人が境目を気にせず動ける地域は、おもしろいことが起こると思う」と話します。

アドレスホッパーになったきっかけや、塩尻をホームに選んだ理由、アドレスホッパーを通じて得られた“人”に見出す価値観について聞きました。

【プロフィール】
にしで・ゆうき
平日は会社員、休日はフェス・イベント・コミュニティの立ち上げ・運営・コンサルをするパラレルキャリア。 現在、住まいのサブスクサービス「ADDress」を活用した全国220拠点以上の多拠点生活をしつつ、自治体案件はじめ様々なプロジェクトに参画。ご相談・経歴はこちら


クラファンを、支援者と塩尻がつながるキッカケにする

――現在は塩尻に「滞在型交流拠点[en.to](えんと)」を作るクラウドファンディングのプロジェクトマネージャーを務めていますね。

[en.to]となるのは、塩尻駅前の大通り「大門商店街」の一角、元ギフトショップの建物。人口減少から、シャッターを下ろす店舗が目立つ商店街において、その建物も同じく、時代とともに使われなくなってしまいました。

2022年11月、高齢の大家さんを手伝おうと、建物のお掃除ボランティアが実施されたことから、地域内外から集まったボランティア同士の交流が盛んに。その熱を火種にして始まったのが、滞在型交流拠点となる[en.to]プロジェクトです。

「大門商店街」の元ギフトショップのお掃除イベントには100名以上のボランティアが集まった

目指すのは「地域に足りないものを、自分のできる資本(お金や時間、あるいは持っている経験やモノ・コトなど)を出しあって譲り合い、分け合う場所」。地域に住む人・行政・関係人口がどんどん関わる、“新しい公共が作る社会”への参加者を、クラウドファンディングで募っています。(2023年5月10日まで)

――クラファンに込めた思いを教えてください。

クラファンはゴールではなく、スタート。そのためには、単純にクラファンで支援をいただくだけで終わってはいけません。クラファンをキッカケとして、支援者が塩尻の人たちとつながり、塩尻に何度も来たいと思える流れを作りたいと思いました。塩尻に興味を持って足を運んでくれる人が1人でもいてくれたら、クラファンをやった意味がありますね。

40近くあるクラファンのリターン。全て塩尻で活躍する人と繋がれる内容になっている

――クラファンページでは、メンバーそれぞれから想いが語られています。

[en.to]には、プロジェクトメンバーそれぞれの想いが集結しています。おそらく最初は、プロジェクトに注ぎ込んでいく想いや期待を、1個に絞るのがセオリーだとは思います。しかし、個性的なメンバーを見ていたら、逆に1個に絞ったら、失敗すると思いました(笑)。

あるメンバーは「関係人口が地域に関われて、地域と協創できるような場所にしたい」。またあるメンバーは「愛着を持って自らアクションできるような、地域の担い手を育てたい」。さらには「地域のおばあちゃんやおじいちゃんを、自然に助け合えるような公民館のような場にしたい」というメンバーもいます。

メンバーそれぞれ、いろんな立場から実現したいことは異なります。しかし、作りたい世界観は同じです。

――にっしーにとって、[en.to]はどのような場所が理想ですか?

「境目がない」場所ですね。例えば[en.to]を中心にして、塩尻の商店街でイベントを企画する際、塩尻に住んでいる人だけでなく、どこの地域に住む人であっても、参加して構わないと思っています。塩尻に行ったことがあろうが、なかろうが、取り組みに興味がある人だったら全く問題ない。地域に愛があるのは良いことだけど、愛がある人しか関わってはいけないというのは、ちょっと違うと思っています。

僕がこのように思うのは、いろんな地域で活動してきた際に「もっと間口を広げたら、もっと面白い人たちをたくさん呼べるし、もっと面白くできるのに・・・」と惜しく感じたことがあったから。関わりたいと思ったら関われるし、ちょっと距離を置きたいと思ったら、距離を置ける「来るもの拒まず、去るもの追わず」みたいな場所がちょうどいいですよね。

充実したアドレスホッパー生活から、次第に感じた寂しさ

――塩尻に辿り着いたのは、アドレスホッパー生活がきっかけですね。アドレスホッパーになった理由を教えてください。

社会人になって、東京で独り暮らしを5年。その後、父親の末期がんの余命宣告があり、実家のある大阪と東京を行き来する2拠点生活を始めました。

その後、コスト面から東京の賃貸を引き払って、ホテル暮らしに切り替え。そして東京の拠点を、住まいのサブスクサービス「ADDress」にしました。ADDressで利用できる拠点は全国にあるので、拠点はだんだんと地域へと広がっていきました。

全国に拠点をもつADDressを利用してはじめたアドレスホッパー生活

ADDress拠点にはシェアハウスも多く、家を管理する「家守(ヤモリ)」さんを中心とした利用者同士の交流が生まれます。いろんな人と話せて、その話からはいろんな発見がある。そんなアドレスホッパーによって生みだされる新鮮な出会いに、魅了されていったのです。詳しくは電子書籍「好きな時に、好きな場所で、好きな暮らしをする」に書いたので、興味があればお手に取ってみてください。

――現在は、塩尻の滞在が長いとのこと。どのような気持ちの変化があったのでしょうか?

実は2022年に掲げた目標が「定住先を作ること」。アドレスホッパーを2年間続けてきて、正直、孤独感を覚えていました。

いろんな地域の方とつながることで、共同代表として地域プロジェクトをスタートさせることもありました。しかし、同じチームでありながら、同じチームではない感覚があったんです。僕は地域にいないこともあったので、オンラインミーティングも多かったのですが、結局、物事はオフラインの現場で動いている。現場で生まれた情報や雰囲気は、すべて自分に入ってくるわけではありません。

全国各地で様々な地域プロジェクトに関わってきた

緩やかなつながりだけでは、自分のホームが作れない。「ホームを1個作ってもいいのではないか」と思うようになったのが、2021年末でした。

「カオスだったから。」塩尻を、長期滞在地のホームへ。

――2022年1月から、ホーム探しが始まったのですね。

まず、行ったことのある地域から6つの候補地を挙げて、まずはお試しで2ヶ月住んでみようと思いました。理想は「地域にいる人たちと一緒に何かをやっていきたいと思える」「自分が心の底からテンションが上がる」ような環境。

はじめの拠点として選んだのは、塩尻。滞在先は「信州塩尻宿場noie坂勘-sakakan-」です。

――なぜ塩尻をはじめの拠点に選んだのでしょうか?

「カオスさ」を感じていたからです。塩尻はプレイヤーが多く、いろんな活動があって、底が知れない場所。いろんなコミュニティもあって、何がどうなるのか全く分からない印象があったんです。

そして点在するプレイヤー同士は、横のつながりがあるので、プロジェクト同士が協力し合える。これが、いつしか大きなムーブメントを引き起こす可能性を感じていました。

――実際に長期滞在してみて、いかがでしたか?

今まで2週間を超えて同じ拠点に滞在することはなかったので、2ヶ月という長さに不安を感じていましたが、あっという間でしたね。塩尻の生活は、まるでおもしろいシーンを詰め合わせた“サンプル動画“や“映画予告”のよう。

おもしろいシーンを詰め合わせた“サンプル動画“のよう、と感じた塩尻ライフ

塩尻にいるプレイヤーたちとつながるうちに「これ、たぶんあと3ヶ月いたら、もっと面白くなるんだろうな」「もっと関係を深めたい」と思いました。

人が、人の心を動かしている

――これまで話を聞いていると、にっしーは、“人”に関心を置いている気がします。

「人が、人の心を動かしているな」という実感は、アドレスホッパーの経験からありますね。例えば観光では「1度行ったら、しばらくは行かなくてもいい」と感じる観光スポットもあるじゃないですか。しかし人とつながると、また会いに行きたくなるんです。

また会いに行きたくなる人との出会いが再訪する理由になる

人は変化し続けるので、「夢を叶えてお店を開いている」「子どもが生まれている」なんてこともありえます。そうすると「お店に行かなきゃ」「会いにいかなきゃ」って思いますよね。やっぱり人には変化があるし、心を動かす姿があるので、再訪する理由が生まれるんです。

そこに人が住んでいる限り、そこの人がちゃんと光を浴びる状態を作れば「その人がフックになって地域に人を呼ぶだろう」と思っています。

塩尻の人は「何もない街なんですよね。」って言いがちですが、僕にとっては、会わせたい人がたくさんいる地域です。自分の友達を、地域の人につなぎたいと思えるのは、塩尻の魅力だと思うんですね。

――塩尻が、にっしーの知人がつながっていく地域であることが嬉しいです。最後に、これからの目標を教えてください。

現在、[en.to]以外にもいろんな地域のプロジェクトが同時に動いています。いったん、それらに集中して花が咲いている状態にしたいですね。全部のプロジェクトに実現したい世界観があるので、小さくてもいいから形にするというのが2023年のやりたいことです。

[en.to]においては、2023年9月にシェアハウスがオープン予定。クラファンをキッカケに新しい人がやってきて、つながってほしい。住んでいる人も関係人口も「お互いに出会えて良かったね」という状態にしたいですね。そして、そこから新しいものが生まれた時、[en.to]の花が咲いた状態だと思います。

大きなムーブメントを引き起こすであろう[en.to]。ワクワクしかないですね。

(取材・構成/竹中 唯)

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