地域の事業プロデューサーが語る、地域副業のすすめ「リスクなく、教養や価値観を身に付けられる機会」
「のりしおな人」第6回に登場いただくのは、全国各地で観光事業や伝統工芸のプロデュース・PRなどを10年以上行ってきた松本慕美さん。
2020年には、塩尻市木曽平沢の「大河内家具工房」にて伝統工芸の職人に向けた、人材育成プロジェクトの副業に参加しました。
さらに翌2021年から現在まで「モナミ美容室/イワサ理容室」が企画する、着物ツアーを推進する副業にも参加しています。
本業でも地域の事業に携わりながら、2年連続で塩尻の副業に参加する松本さん。「地域での副業は、ぜひおすすめしたい。友達にも、すすめています!」と話します。地域で得られる学びについて、詳しく聞いてみました。(取材日:2022年5月26日)
【プロフィール】
まつもと もとみ
東京都浅草生まれ。株式会社白草にて、地域のプロダクト、まちづくり、観光事業などの領域を横断し、地域資源を生かした事業の立ち上げやPR、マーケティングをおこなう。新卒で株式会社インテリジェンス入社。その後、株式会社エス・ビー・ビーにて、文化・観光事業ディレクター、伝統的工芸品事業プロデューサーを兼務。カメヤマ株式会社や合同会社SIRISIRIでマーケティングを担当した後、現在は株式会社白草にて代表取締役を務める。
観光ではなく、仕事だからこそ分かる地域の良さ
ーー本業でも地域でご活躍される松本さんですが、なぜ地域の仕事をされるようになったのでしょうか?
新卒では、東京の人材会社に入社し、キャリアコンサルタントとして、会社員の転職相談を受けていました。
そのうち、社会の流動性が高くなることへ寄与するような仕事をしたいと思い、文化・観光・伝統工業などのプロデュースを行う会社へ転職しました。
ディレクターとして、日光東照宮400年式年大祭プレイベントや、富岡製糸場世界遺産登録支援プログラムなどの大きなイベントから、中小企業の商品開発まで、コトモノ問わず、偶然にも地域の仕事にたくさん携わりました。
異なる文化や環境に住む、地域の方々と一緒に仕事をすると、いろんな価値観に触れることができるんですね。観光よりも、人と深く関われるので、いろんな考え方や思いが見えてきて、私自身の考えの幅が広がっていきます。
その奥深さから、地域での仕事に惹かれていきました。
地域のお仕事は、観光をしない旅と言えますね。
ーー地域の仕事の良さを知る松本さんが、副業として塩尻に携わろうと思った理由を教えてください。
それまで塩尻市にうかがったことはありませんでしたが「木曽漆器」の名は知っていたんです。各地の伝統工芸品の職人さんに「漆塗りはどこにお願いしているんですか?」と聞くと、「木曽漆器」の町である「木曽平沢」と返ってくることが多かったんです。
きっと、面白い場所に違いないと感じて、いつか行ってみたいと思っていたんです。
家具工房の職人育成に貢献。ワークショップを3ヶ月間実施
ーー木曽平沢の地に構える大河内家具工房の副業テーマは、若い職人の多能工育成プログラムでした。どのような狙いがあったのでしょうか?
工房には、社長であり職人である大河内さんと、当時20〜30代の若手の職人さんがいらっしゃいました。
大河内家具工房は、漆器の漆を塗る前の木地生産や、タンスや座卓など家具のOEM生産を担うことで事業を展開してきましたが、今後は自社ブランドの割合を高めることを目指しています。
そのためには、1人の職人さんが1案件を、最初から最後まで進められる業務体制にしたいと考えていました。
1人で完遂するには、見積もりやディレクション、スケジュール調整など、いろんな能力が必要です。
あらかじめ決められた手順通りに制作することが、ものづくりの世界では基本ですが、今後は、自分で考えて行動することも必要となります。
多能工なスキルを磨いてオーナーシップを発揮してもらうには、まずは仕事を「自分ごと」で捉えてもらうマインドが、とても大事だと思うんです。職人さんだけじゃなくて、どこの会社でもそうだと思いますけどね。
ーー仕事を、自分ごとに捉えてもらうために、どのようなことをされたのでしょうか?
オンラインで1〜2週間に1回、3ヶ月間のワークショップをおこないました。私と、もう一人の2名でワークショッププログラムを考えました。
「会社のビジョンを自分に落とし込んだときに、自分との間にどういった接点があるか」や「自分なりに思うカッコいい職人像って何だろうか」などを考えてもらうことで、職人さんが今後どうなっていきたいのか、どうしていくべきなのか、それぞれの解を引き出すことを意識した内容になりました。
最初は言葉にできない方もいらっしゃったのですが、ワークショップのたびに、気持ちを話したり、書いてもらったりするうちに、だんだんと自分の言葉で表せるようになりました。
言語化することで、自分の心の底にある感情や考えにも、改めて気付くことができます。最後の日に、自分の思うカッコいい職人像を共有してワークショップを終えました。
ーー松本さんが勤められた人材会社と、現在おこなっている地域での伝統工芸プロデュースの仕事がミックスされたような仕事ですね。仕事を自分ごとに考えられれば、モチベーションアップにもつながりそうです。
私自身もそうですが、言われた通りに従うだけでは、時にはやりたくないと思ってしまうこともあるんですよね。
しかし、なりたい職人像を目指すことで、主体的に行動する気持ちが生じます。そこで成果が出れば、楽しい気持ちになれるはず。そんな土台ができたと思います。
職人さんのモチベーションが、唯一無二の作品をつくり、会社の知名度も上げていく。結果的に、会社の売り上げにもつながっていきますよね。
2回目の副業へ突入。原動力は、楽しさ
ーー大河内家具工房での副業が終わり、今度は同じく塩尻と松本にあるモナミ美容室/イワサ理容室の副業も始まったそうですね。
オーナーの岩佐さんは、美容師なのにその枠にはまらず、地域のお土産づくりもしています。やりたいことを実現しているパワフルさに惹かれて、ご一緒したいと思いました。
モナミ美容室で現在考えているのが、短歌にまつわるスポットを、着物で巡るツアーです。
美容室がある広丘地区は、数多くの歌人達が集まって、短歌が創作された地でもあります。短歌をテーマにしたストーリーを脚本家さんに作ってもらい、その主人公になった気分でスポットを巡って、楽しんでもらいたいと企画中です。短歌は恋愛を詠んだものが多いので、出会いのきっかけになるような工夫をするのも楽しそうだなぁと話しています。
ーー2回目の副業も、これから本格的に動いていきますね。連続して副業に挑戦できる原動力はなんでしょうか?
純粋に楽しい、面白いからですね。
地域の中小企業の事業者さんたちは、それぞれに個性があって、会話するたびに発見があります。
リスクなく、さまざまな教養や価値観を身に付けられるのが、副業のいいところ
ーー塩尻の副業で、感じられたことを教えてください。
今回、関わった方々は「どういう人生を送っていこうか、どう暮らしていこうか」自分で考えて過ごす暮らし方が、根付いているように感じました。
大河内家具工房では、作業時に使いやすいようにオリジナルの椅子を作っていたり、生活の中で使いたいお弁当箱を商品化していたりと、自分達が使うものを、自分たちで作ることがあるんですよね。ものづくりで、暮らしを整えているんです。
モナミ美容室/イワサ理容室でも、美容室という枠にとらわれず「楽しそうだから自分達でお土産を作ってみよう」という発想がいいですよね。
シンプルなことですが、なんだか生きる力を感じます。非常に面白い地域で、学びの多い時間を過ごせています。
ーー学びが多いとのことですが、地域で働くことで得られるものは、なんでしょうか?
スキルで言えば表現しづらいのですが、スキルよりも今の時代に必要なのは「自分がどういう考えで生きていきたいのか、生活をしていきたいのか」振り返ったり、見つめ直したりすることだと思うんです。
地域副業は、そのための教養を身に付けられる、いい機会になると思います。
たとえば、企業1社に10年間いると、企業のルールがまるで自分のルールかのように錯覚してしまうことってあると思うんです。マッチしていればいいと思うんですけれども、それが基準の全てになってしまうと、辛いこともあると思うんです。
一方で、地域に行けば、もうびっくりするぐらいのローカルルールもあるんです。お隣さんにただで野菜をもらったとか、助け合うこともあって、資本主義の都会とは異なる世界があるのではないか、と感じることもあります。それらに触れると、自分のなかでは当たり前だった基準が、当たり前ではないことに気が付くことができます。
地域では、いろんな教養を身に付けられて面白いですし、その結果、いろんな視点から物事を捉えられるようになります。
視野が広がれば、時には救いになることもあります。前向きに、楽しい気分で生活できるヒントが見つかると思います。
ーー最後に、塩尻の副業の参加を検討している方に、メッセージはありますか?
私は、友達にも地域の副業をおすすめしまくっています。
現在、会社員として働いているのならば、安定した生活を維持しながら副業に挑戦できるのは、いいことしかないと思いますね。
そして、塩尻での副業では、いろんな方と協業させてもらえるので、プロジェクトによって、異なる表情を見ることができます。
やっぱり観光ではなく、一緒に仕事ができるということは、そこで出会う人との関係性も深くなり、得られるものも大きいと思います。
運営からも、手厚いサポートをしていただけるので、お気軽に参加してほしいですね。
将来的に、いろんなプロジェクトをクロスさせることで、何かまた新しいものが、塩尻の地で生み出せたらいいなと思っています。
(取材・構成/竹中 唯)
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