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都市部の課題解決方法を、塩尻でさがす。地域で学ぶ、ビジネスやコミュニティ形成

塩尻駅にほど近い「大門商店街」。多くの店舗がシャッターを閉めている通りですが、そのうちの1つの空き店舗が生まれ変わろうとしています。目指すは、コミュニティを醸成するスペース。名前は縁をつなげる「en.to(エント)」と名付けられました。

この活動に共感し、出資者を募るクラウドファンディングを支援したのが、近藤昇久さん。最高額の枠に出資し、業務執行役員として経営に参画できる権利を得ています。

参加した理由は、自身が住んでいる東京の地区で「人のつながりの希薄」「空き家」が課題として挙げられているから。塩尻で解決のヒントが得られそうだと感じて参加しました。

「地域で挙げられることの多い課題ですが、東京も他人事ではありません。地方で課題解決に向けて活動しているのなら、学びに行くべきですよね。東京も地方から得られることがたくさんあると思います。僕は、相互に助け合えるような関係人口が理想です。」と近藤さん。
「en.to」での活動や、「en.to」の活動を活かして自身の住む地区でやっていきたい取り組みなどを、お伺いしました。

【プロフィール】
こんどう・のりひさ
1970年、東京生まれ。経営コンサルタントとして、企業のデジタル・テクノロジー人材育成を支援。
外資系IT企業のプロジェクト・マネジャーとして金融系システム開発を担当したのち、国際NGOの日本事務局スタッフに転職。IT担当マネジャーとして、戦争や自然災害に苦しむひとびとへの人道支援活動をITの分野から支える。2017年に独立し、現職。2019年より学び直しとして大学院に通い、MBA(経営学修士)の学位を取得。2022年に大学院の仲間と地域活性化をテーマとしたフィールドワークに訪れたことをきっかけに塩尻との関りが始まる。


都市部も「人のつながりの希薄」「空き家」が課題

――塩尻との出会いを教えてください。

塩尻と出会ったきっかけは、社会人大学院の「グロービス経営大学院」に通ったこと。学生同士のクラブ活動「地域活性化クラブ」のメンバーとして、塩尻の「本山宿」にある空き家を片づけるボランティアに参加したことです。

そこで知り合った方々から紹介されたのが、後に「en.to」となる空き家(元ギフトショップ「ハリカ」)を片付けるボランティアでした。手伝いたいと思い、ふたたび塩尻に来訪しました。

グロービス経営大学院の仲間と参加した本山宿での空き家の片付け

――なぜ再度、塩尻の空き家を片付けるボランティアに参加されたのでしょうか?

ちょっとかっこいい方をすると「縁を絆に変える」ことを意識しています。「自分が役に立つかどうか分からないけれども、とりあえず関わってみる」というのは大事だと思っています。

また、僕の住む東京の品川区中延(なかのぶ)という街においても “解決をしたい” と思っている課題があります。「その課題解決のために何かヒントが得られるかもしれない」と、漠然とした期待感がありました。

――近藤さんの住む品川区中延において“解決をしたい”と思っている課題は何でしょうか?

自治会役員や消防団を担当するなかで感じるのが、都市部における「人のつながりの希薄」「空き家」についての課題です。地方の場合は、人口減少によって起こる地域課題と言われていますが、都市部では人口増加をしているにもかかわらず、地方と同じような課題が起きているのです。

東京では、例えば同じ地区に住んでいる住民どうしでも、他の地域からの出身者が多く、住民どうしが関わる機会が少ないと感じています。「人のつながりの希薄」は、普段の生活では特に問題ないかもしれませんが、大きな災害が起きたときなどに、助け合いが生まれません。

また、一人暮らしの高齢者が亡くなったとしても、跡継ぎがいらっしゃらないことなどから「空き家」が増えています。空き家は、倒壊や火事などが起こりえますので、防災面としても課題です。

そんな中延の課題と、塩尻の課題が重なったように思えました。

「en.to」出資は、学んで成長できる機会をつかむため

――課題解決のヒントを期待して参加する「en.to」。「en.to」では、どのように関わっているのでしょうか?

空き家再生のためのクラウドファンディングが立ち上がったので、そこに出資しました。

▼en.toクラウドファンディング:

「en.to」のコンセプトとしては、“地元の方や移住者、行政、地元企業、関係人口、初めて塩尻を訪れる方などが、立場を超えて交流できて循環していく拠点“となること。利益重視の運営ではないですし、寄付に近いものですが、数十万単位で出資をしています。

また、せっかくやるんだったら「今後も関わっていこう」と思い、運営を担う合同会社en.toの業務執行社員となりました。

――「en.to」に少なくない出資をした理由、そして今後もより関わっていこうと思えた理由を教えてください。

合理的に説明するのは難しいですね。しかし、未来を変えようとしている人たちが塩尻にいて、そのような人たちと一緒に携わることで、自分が学んで成長できる機会になりそうだと思いました。

あとは自分が関わることで、地域の人の幸せや、子どもたちの未来につながると思うと嬉しいんです。中延でも役員になったり、お祭りを実行する側に回ったりしていますが、その延長線上に「en.to」があります。

もともとは塩尻に縁はまったくありませんでしたが、偶発的にいろんなものが積み重なったことによって、僕にとっても大切な一部になっています。この先、何があるかわかりませんでしたが、見えないものへの期待感みたいなものは漠然とありました。

一緒にプロジェクトを進めるen.toコアメンバーと

地域で学ぶ、ビジネスやコミュニティ形成

――これまでの「en.to」立ち上げの活動で、学べたことを教えてください。

地方ビジネスのケーススタディを体験できたことですね。僕は今後、中延で、飲食店併設型のクラフトビール醸造所=「ブリューパブ」と呼ばれる店舗を出したいと考えています。その第2号店として、地方に店舗を出すことも夢なんです。それに備えた、地方行政との付き合い方について、実利的な学びがありました。

特に、補助金の仕組みは感覚的に分かりました。また、地域企業がどのようなマインドで商売をされているのかだとか、シェアハウスの建築を通じて、建設業者の方の考え方や動き方なども見ることができました。

ブリューパブは「僕が飲むのが好き」×「人が集まれる場」という、非連続な発想のジャンプではありますが、先述の課題である「人のつながりの希薄」を解決するためのきっかけとなれる場を想定しています。人々が集まってワイワイ会話ができて、楽しくつながれるコミュニティをつくるのが理想です。

――コミュニティ形成の狙いがある点で、「en.to」と「ブリューパブ」は共通点がありそうですね?

コミュニティ形成は、言葉で言うのは簡単ですが、実践は難しいでしょう。それはまさに「en.to」が直面している課題でもあると思います。うまくいけば僕が「ブリューパブ」に目指す世界にも、近づいていきます。

都市と地方、相互に助け合える関係人口創出

――近藤さんのお店であるブリューパブの地方店が、塩尻や「en.to」に開業される未来も起こりそうですよね。

ブリューパブが塩尻に開業できたら、それは嬉しいこと。そして今度は中延も、塩尻の皆さんに知ってもらえたらいいですね。現在は、僕が塩尻に通っていますが、塩尻の方が中延に通ってくれるような関係性があってもいいのではないでしょうか。関係人口は、一方通行ではないと思っています。

都市がなにかを得ているから、地方が助けてもらうなんてことは、自分の中では違和感があります。僕は、東京だけで十分に完結しているとは言い難く、東京にも関係人口は必要で、地方にしかないものも、たくさんあると思います。

そのために、中延について皆さんに知ってもらうというのも、僕のライフワークなのかもしれません。「いろんな地域が相互に付き合えて、助け合えるような関係性に落とし込んでいければいいな」と思っています。

現在暮らす中延の街並み

――今後「en.to」で生まれるものに、期待はありますか?

みんなが楽しく平和に暮らせるベースが実現できたら嬉しいですね。これまでの日本は、資本主義のなかで経済的豊かさを追い求めていた時代。同年代のなかにはブラックな働き方をする人も、パワハラされる人も、鬱になってしまう人たちも、あふれていました。

人口減少で、経済成長の時代でもない今、必要なのは、しっかりと顔が見えて、困ったときに助けられるコミュニティだと思います。

僕はかつて「国境なき医師団」の日本事務局のスタッフを務めていたのですが、たまたま生まれた地域によって状況が異なる人々がいるのを目の当たりにしました。単純に経済合理性だけでは解決しない世の中があることを、実感したのです。

そして「en.to」で生まれ育まれた価値観は、一時的ではない文化や精神的な基盤として、長く残っていくものであるといいですね。「en.to」以外にも拡張していき、次の世代に続いた先で「この価値観のきっかけがen.toだったね」なんて言われたら嬉しいです。

(取材・構成/竹中 唯)

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