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「純粋に応援したい」気持ちが原動力。“お客さん"ではない立場で、地域の企画を続けていくおもしろさ。

2020年末から2021年始めにかけて、塩尻市の木曽漆器工房を支援するクラウドファンディング「コロナで大打撃!食卓を豊かにする伝統木曽漆器を応援させて!」がおこなわれました。

コロナ禍で大きく売上が減り、伝統の担い手である職人の雇用が危ぶまれるほど窮地に立たされた工房のために、山口有里さんを中心とする「グロービス地域活性化クラブ」によって、漆器を購入できるクラファン企画が立ち上がりました。

「伝統工芸品を使うことがいちばんの応援になる!と考えて、短期的にも支えることができる、かつ長期的にも漆器のファンを増やすことができるようなクラファンを企画しました。魅力が広まっていく過程を、職人さん達と共有できて嬉しかったです。」

それからも縁が途切れず、今では空き家を片付けて活用を探るプロジェクトにも参画することになりました。

「お客さんとしてではなく、仲間としての目線で地域に入っていくと、地域の味わいが全然違う。」と山口さん。自分ごととして地域を捉える志や、地域で得られるご縁について伺いました。(取材日:2022年9月27日)

【プロフィール】
ヤマグチ・ユリ
学生時代より環境問題に関心を持ち、出光興産株式会社経営企画部サステナビリティ戦略室に所属。「人と自然が共に繁栄する未来を創る」をライフテーマにインタープレナー(越境人材)として活動。グロービス地域活性化クラブ(※)にて地域活動をおこなう。

※グロービス地域活性化クラブとは
グロービス経営大学院(https://mba.globis.ac.jp/)の公認クラブのひとつで、学んだ経営学の知識を地方創生や地域活性に活かそうとする有志が集まって活動。

偶然の出会いから、木曽漆器クラウドファンディングへ

ーー塩尻との出会いを教えてください。

当時、塩尻市役所にいらっしゃった山田崇さんと(株)パソナにいらっしゃった鳥羽真さんに、グロービス地域活性化クラブのイベントに登壇してもらったことがきっかけでした。

東京で生まれ育ち、田舎の存在に憧れを持っていた私は、その頃「地域の人口減」というニュースをよく聞くようになって、田舎の未来に不安を覚えていたんです。「何か私にできることはないのかしら?」とアンテナを張っていました。

塩尻訪問が決まったのは突然でした。イベント時に山田さんから「スケジュールを決めない人は、何もやらない人だ」と話されたことから、とりあえずその場にいた人で、2020年2月15日に塩尻に行くことだけが決まったのです。

ーー何をするかも決まっていないまま、塩尻に訪問したのですか?

そうです。その日、山田さんと鳥羽さんに連れて行かれるままに、木曽平沢地区の木曽漆器の工房に訪問することになり、職人さんたちとお話をしました。
漆器について何も知らないまま、おふたりの職人さんに出会ったのですが、職人さんたちの仕事に臨む姿勢に、一瞬で惚れ込んでしまいました。

木曽平沢の工房見学

ーーどのようなところに惚れたのでしょうか?

職人さんたちが、お仕事に誇りを持たれているのはもちろんのこと、自身の世代だけではなく次の世代へ伝統を受け継がなくてはならないという、使命感や責任感を抱えている姿です。

歴史や伝統を背負いながら、決して楽ではない仕事においてチャレンジを続ける志に、カッコいいと感じましたね。そして、飾らないお人柄もとても素敵で、すっかりファンになりました。

経営者かつ職人でもある丸嘉小坂漆器店の小坂さん(左)と大河内家具工房の大河内さん(右​​​​​)

ーー学生時代から環境問題をテーマに活動していたそうですが、漆器も環境に優しい側面を持っていますよね?

「モノを大事に使わなくなってしまった今の世界は、突き詰めていくと、大量生産・大量消費がきっかけで始まっているんだよなぁ…。」
そんなことを考えていたところに、思いがけず漆器に出会えました。

漆は、漆の木の樹液を精製した天然の樹脂素材。漆が塗られた漆器は、天然の素材だけを用いて、手仕事によって作られます。傷んでも、塗り直すことで修理ができてしまう。究極にサステナブルな生活用品ですよね。

木曽漆器のお弁当箱

ほかにもIT化や機械化が好ましいとされる世の中で「効率化の先に何があるのか」とモヤモヤとした考えがあったところに、その逆を行くような手仕事に出会えたことも幸運でした。
漆器には、本質的な価値が込められているのかもしれないと感じました。

「支援したい」自発的な気持ちから始まった企画

ーー出会いから、クラファン支援を行うことになったきっかけを教えてください。

次の訪問をしようかと思っていた矢先、コロナ禍にみまわれたんです。漆器販売の会場となる百貨店の催事がすべてキャンセルになったり、工房へ直接購入に訪れるお客さんも減ってしまったりと、厳しい経営状況を伺いました。

居ても立っても居られない気持ちで、すぐに支援をしたいと思いました。しかし、短期で結果を出す支援が必要とは言っても、長期的にもインパクトが残るものでなくては、あとに繋がりません。
そこで、漆器を定価で買っていただく購入型クラウドファンディングを実施することにしました。漆器に興味がなかった方にも、クラファンを通して手に取ってもらえるきっかけにしたいと思いました。

ーー第1目標の100万円を早々に達成し、1ヶ月半で第2目標の200万円の支援を集めることができました。

クラファン中は、漆器の愛用者から応援メッセージを集めてお気に入りのポイントを紹介したり、職人さんを交えた交流型オンラインイベントを開催したりしました。
ご支援者からは漆器の良さだけでなく、職人さんのお人柄、ものづくりへのこだわりなど、いろんな観点から魅力に触れられたと反響がありました。
木曽漆器の多面的な魅力が伝わった結果だと思います。

クラファン後も、ご支援者のコミュニティを作ったり、工房から作業風景の生中継をお届けするオンラインイベントを開いたりと、ご縁が繋がっています。

ーー危機を察知して、クラファンを企画から実行、成功まで導くことができたのは、なぜでしょうか?

私一人ではなく、クラファンに共感してくれたプロジェクトメンバーがたくさんいたからです。クラファンを実施するにあたって、私が所属しているグロービス経営大学院で、職人さんにご登壇いただくオンラインイベントを開催しました。職人さんのお話を直接聞いてもらう以上の吸引力はないと思ったからです。

たくさんの仲間の協力を得て1カ月半で200万円以上の支援を集めたクラウドファンディング

また、大学院に参加する仲間たちの属性を考慮して、大学院の講師にも参加してもらい、課題解決のためのワークショップにしたところ、クラファン運営に協力してくれる仲間が現れました。

そして、一連の活動において私のいちばんの原動力は、仕事や頼まれ事だから実施するのではなく「純粋に応援したい、手伝えることがあるかもしれない」と思えたことかもしれません。
その思いを受けとめてもらえたことが、素直に嬉しかったです。

縁が繋がって、次は空き家プロジェクトへ

ーークラファンを終えた現在、塩尻で続いている活動があるそうですね。

現在は、塩尻の本山宿にある空き家の片付けをしています。クラファンにおいて品物の撮影をさせていただいたのが、シェアハウスであり地域コミュニティでもある「坂勘」で、そこのオーナーである、たつみかずきさんと出会い、誘っていただきました。

本山宿での空き家片付け

「空き家の片付けをすると地域の人と仲良くなれる」とたつみさんから聞いて「本当かどうか、試しにいかなくちゃね」とグロービス地域活性化クラブから参加しているメンバーが十数人います。
縁が縁を生んで、また新しい形のプロジェクトチームが生まれていくことを、非常に嬉しく思っています。

ーーこれから、塩尻市でどのような関係性が待っているのでしょうか?

空き家に手を入れた時点で、もう塩尻と無関係ではいられませんよね。無縁じゃない人として、関わりを続けていきたいですし、やりたいこともたくさん浮かんできているので、進めていきたいです。
実際に、大家さんをはじめとする地域の方と実際に繋がれて、みんなすっかり関係人口になれた気分です。ある種覚悟を決めて、関係人口としてのお役をさせていただけたら嬉しいです。

塩尻には、関係人口という存在を信じていただいている気がします。よく知らない人たちが地域に関係していくことは、普通の感覚ではだいぶ怪しいと思われるはずですよね(笑)。
しかし、いい関係を作れることを前提に接していただけているところが、塩尻の巻き込み力の原点なのではないかと思います。

塩尻との豊かな関係性

ーー関係人口になって、良かったと思えたことはありましたか?

田舎がなかった人間にとって、帰れる場所が増えたことです。お客さんとして観光するのではなく、仲間としての目線で入っていける地域は、味わいが全然違います。
お客さんだったらお金さえあればどこへでも行けますが、仲間になれるのは特別で、プライスレスです。

空き家の片付けをしたときも、観光はせずに早速、新しいメンバーと木曽漆器の職人さんを訪ねて、顔合わせしました。塩尻が特別な場所として存在していて、足を運べば挨拶をしたい人がいる。それは、何にも代えがたいギフトですね。

これからも、いただいたご縁をじっくりと育くんでいきたいと思います。

足を運べば挨拶をしたい人がいる場所となった木曽平沢

ーー地域に鮮やかに巻き込まれた山口さん。今後、地域で活動したいと考える方へアドバイスはありますか?

気負わずに、地域に行ってみることですね。ちょっと調べれば、扉を開けて待ってくれている地域のイベントはたくさんあります。
あとはそこで、素敵な人に出会ってしまった時に、根掘り葉掘りいろんなお話をしてみるといいのではないでしょうか? 地域の人とフラットに話すことで、関わりしろを、見つけることができるかもしれません。

もし気合いをいれて「課題を見つけて、なにかしなきゃいけない」という焦りで動けば、お互いの関係性が重くなってしまいます。
私の旅は、何をするかも決めずに塩尻へ行って、そこでの偶発的な出会いを味わった「No issue, No agenda」の精神から始まりました。そうすることで、フラットで新鮮な目で地域を見ることができて、純粋に出会いを楽しめた気がします。

ふらっと足を運んで、ピンときて、喜んでほしい誰かに出会った時が、始まりじゃないですかね。

(取材・構成/竹中 唯)

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