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好きなワインを題材に。新たな分野への挑戦ができた地域活動

長野県のシステム開発企業・エプソンアヴァシス株式会社で実証実験がおこなわれるのは、「“半ワイン半X”のライフスタイルを実現するワンストップ・プラットフォーム『#WINE/LIFE』(仮)」サービス。地域の仕事をしながら、ブドウ栽培やワイン醸造にも携わるライフスタイルを提案するプラットフォームです。
このサービス開発に伴走したのは、PR・ブランディングなどマーケティング関連の仕事をおこなう菊川厚さん。「塩尻CxOLab」の副業人材として参加しました。

「新規事業開発」は、菊川さんにとって初めての挑戦でした。「自分のキャリアを、専門領域以外で活かすことができて、いい経験になりました」と菊川さん。塩尻での副業への展開や、事業開発経緯、今後の地域活動についてお伺いしました。

【プロフィール】
きくがわ・あつし
複数の外資系広告代理店やPRエージェンシーで戦略プランナーとして、外資系ブランドのブランディングやマーケティングコミュニケーションを20年以上担当。現在は独立し、個人事業主としてブランドマーケティング関連のコンサルティングを仕事にしている。

ワインをもとに、インプット&アウトプット

――塩尻市との出会いを教えてください。

ワイン好きが高じて、日本ソムリエ協会の「ワインエキスパート資格」を取得した後、せっかくだからワイン産業に関わる仕事がしたいと、きっかけを探していました。
私はPRやブランディングなどのマーケティング関連の仕事をしていますので、ワインのマーケティングへの挑戦も考えていました。

見つけたのが「塩尻ワイン大学」第3期の募集。
塩尻ワイン大学の存在は、ブドウ栽培家やワイン醸造家を目指す方が通うスクールという文脈では知っていましたが、第3期では新しい取り組みとして、塩尻ワインや食文化を一緒に作っていくパートナー人材育成を目的にしていることを知りました。
「塩尻ワインや食文化を一緒に作っていく」ことは、自分がやりたいことにかなり近いんじゃないかと考えて、参加することにしました。

塩尻ワイン大学では、塩尻のワイン産業に関わる方々のお話を伺ったり、ワインによる地域活性化や、農業の6次産業化などについて専門家から学んだりと、インプットがたくさんありました。

塩尻ワイン大学での実習風景

――その後、塩尻CxOLabに参加されたのですね。

塩尻ワイン大学で得た知識や体験をもとに、今度は塩尻でアウトプットしたいと考えていたところ、お話をいただいたのが「塩尻CxOLab」の副業人材募集でした。
「塩尻CxOLab」は、副業人材が、地域課題を抱いたテーマオーナーと一緒に、課題解決を目指すためのプロジェクトです。

エプソンアヴァシス株式会社に勤める依田剛さんがテーマオーナーとなり、会社の新規事業企画としても掲げたプロジェクトは「日本ワインのファンを増やすaiコンシェルサービスの構築」

ITの専門性である依田さんは、マーケティングの観点からパートナーとなれる人材を求めていたため、お役に立てるのではないかと考えました。副業人材は私含めて2人となり、依田さんと3人でプロジェクトを推進することとなりました。

ライフスタイルとしてのワインづくりを応援する、サービス開発に伴走

――5ヶ月後、最終的に出来上がった事業構想は、「“半ワイン半X”のライフスタイルを実現するワンストップ・プラットフォーム『#WINE/LIFE』(仮)」でした。初期に目指したaiコンシェルサービスから、がらっと変わりましたね。何が起きたのでしょうか?

開始初期、3人で同じ方向へ進んでいくために、依田さんの想いを共通理解にしたいと考えて、改めてさまざまな問いかけを依田さんに投げたことがきっかけです。
「根本的に何を達成したいのか」「それはなぜなのか」など、時間をかけて想いを整理していくと、コンシェルサービス構築が本当の目的で本当に正しいのか、疑問が湧いたのです。

まず、依田さんが抱くワインへの想いには、3つの根本的要素がありました。ひとつは「お客さん側に日本のワインを良く知ってほしい、そのためにブドウ栽培家やワイン醸造家たちの背景を伝えたい」、ふたつめが「ワイナリーないしブドウ農家の人たちを支える地域貢献をしたい」。
そして、一番の原動力になっていたのが「日本ワインを通じて、人々の出会いや繋がりをつくりたい」という想いです。

「ワインを通じて人との繋がりが広がり、より豊かな暮らしに繋がった」という依田さんの塩尻での原体験があり、そんな体験ができるお手伝いをしたいという思いが言語化されたのです。3人で掘り当てた、与田さんの想いを軸として、もう一度意見交換を重ねることで、現在の事業にたどり着きました。

3人でのミーティングの様子(左上がテーマオーナーの依田さん)

――「人との繋がりから、より豊かな暮らしに繋げる『#WINE/LIFE』」サービスについて教えてください 

『#WINE/LIFE』は、「ワインづくりのあるライフスタイル」を実現するプラットフォームサービスです。仕事や収入のリスクを抑え、仲間と共に楽しみながらワインづくりの知識や経験を積むライフスタイルを提供します。

最近、日本各地でワイナリーが急増しており、日本ワインへの注目が高まることによって、ブドウ栽培やワイン醸造に興味を持つ人が増えています。
しかし、いきなり「ワイン生産家」を目指すのはハードルとリスクが高すぎます。

例えば畑の確保や醸造設備などの大きな初期投資が必要となるので、現実的ではありません。さらにワイン事業が軌道に乗るまで地方で副業をするにしても、なかなか自分に合ったものが見つけられないかもしれません。
産業として見た時には、もちろんご飯が食べられるような体制をつくっていく必要があるとは思います。しかし、必ずしもブドウ栽培やワイン醸造だけに絞って生活する必要はないのではないかと考えました。

例えば地元企業に3日働いて、あとはワイン生産に従事するようなライフスタイル。これを実現できるように地元企業にも参加いただいて、人材とマッチングできるようにします。半農半Xという言葉は以前からありましたが、それを後押しするプラットフォームは珍しいのではないでしょうか。

最近は特にコロナ後の社会事象や、新しく出てきた働き方などから、暮らし方や価値観が変わってきました。
都会にいる必然性がなくなってきて、都会にないものを求めようとする人、例えば土に触れる、風を感じるなど、自然に触れた生活を求める人が増えています。お金を稼ぐこと以外に、日常風景として植物が育つのを実感したり、収穫の喜びを得たりなど、新しい豊かな体験をしたいという価値観をとらえたいと思いました。

2023年は、依田さんが勤めるエプソンアヴァシス株式会社で実証実験をおこなう予定です。今後、さまざまな人や企業が結びついていくことが期待されますね。

専門外だと思っていた「新規事業開発」に挑戦できた

――テーマオーナーに伴走して事業を生み出していく過程で、菊川さんが得られたものを教えてください

まず、「自分の専門領域以外でもお役に立てる」と分かり、新たな自信に繋がりました。
私は長い間マーケティング業界にいたので、新規事業開発は基本的にはやったことがない領域でした。しかし、これまで自分が培ってきたマーケティングの知見や、これまでの経験を通して培ってきた、課題解決のスキルまで、うまく組み合わせることで、外の領域でも活かせることが確認できましたね。

また「自分の専門性の捉え直し」ができました。
今回、依田さんはシステムエンジニア、そしてもう一人の副業人材の方は、経営企画を本業にしていましたので、マーケティングの外にいる2人の視点から、私の専門であるマーケティングのイメージや強みを聞くことができました。外から見るとマーケティングへの見え方が異なるという発見があったので、面白かったです。

そして、なにより学んだのは「行動力の大事さ」ですね。
依田さんは、すごく行動力がある方です。動くことで、新しい出会いが生まれて、出会いから刺激が生まれて、刺激からアイディアや成果が生まれる、その過程を目の当たりにしました。改めて、自分からアプローチしていかないと、物事は前に進まないのだと感じました。

――菊川さんの、今後の塩尻市との関わりを教えてください。

だんだん塩尻市でも知り合いが増えたり、塩尻市についても知ったりするうちに、塩尻で生まれるチャレンジが、他人事ではなくなってきている感じですね。塩尻ワイン大学や塩尻CxOLabには引き続き参加し、何かお手伝いしたいですね。

塩尻CxO Lab現地でのイベントの様子

また一方で、ほかの地域にも関わってみたいという気持ちがあります。私にとって、塩尻は最初の関係地域。塩尻には地域に関する普遍的な課題もあると思いますが、特殊性もあるはずです。
塩尻をもっと知るためには、ほかの地域と関わってみることも大事なのかなと思い始めています。地域と関わるうちに、自分が地域ではどう行動すべきか、あるいは自分は何をしたいのか、専門であるマーケティングがどう活かせるのか、高い解像度で見えてくるような気がします。

――地方各地では、まだまだマーケティング手法が浸透していないのかもしれません。菊川さんは、地域でどのような活動ができそうですか?

地域の方は、その地域の価値に気が付いていないことは多いと思います。また、お客さん側にとって魅力点を差別化して認識してもらう必要があるのですが、そこまで至っていないのだと思います。それらの点で、なにかお手伝いができるのかもしれません。

もし地域の独自性を打ち出したいのであれば、まず地域の特色ある価値に気づいて、伝えたい価値を絞り込み、言い方を1つのスタイルに決めて、そのスタイルを貫く必要があります。そして、それを何度も繰り返して行わないと、興味がない人には届きません。そこにブレがあると、聞く側の人たちからすると、何を言ってるか分からないんです。「色々言ってるけど、結局どんな特色がある街なのか分わからない」みたいなことになっちゃうんですね。

私は外資系の企業に勤めていた期間が長く、主に外国の製品を日本人に買ってもらうように働きかける仕事をしていました。フリーランスになったのは、経験を活かして、特に日本の地方や中小企業の役に立ちたいという気持ちが強くなったからです。外資系で得た知識が全て正しいは言いませんが、今後、地域を応援する時に、外資系のブラディング手法は活かせる部分が多いと思います。その結果、地域に良いことが起きれば非常に嬉しいですね。

(取材・構成/竹中 唯)

▼塩尻CxO Labについてはこちら:

▼過去の「のりしおな人」はこちらから:


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