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塩尻DAO日和 番外編①:DAOメンバーに付与される「ありがとうポイント」って何?

ここ1、2年で地域DAOが全国各地で発足し、地域の特色を打ち出しながら様々なプロジェクトが進み、発信されています。一方、地域DAOを運用する中で、様々な課題が出ているのも現実です。塩尻DAOも例外ではありません。

今回、塩尻DAOメンバーのかぶっちのラジオ番組に出演し、新たな「ありがとうポイント制度」の構築に関して、設計や運用面で苦心しながらも尽力した信州大学のKoichiさんから本音を聞くことができました。地域DAOに共通する課題も多く含まれており、今後の地域DAO運営の深化に向けたヒントが隠れていそうです。


信州大生Koichiさんがコミュニティー活性化に尽力

塩尻DAO日和には2度目の登場となるKoichiさん。信州大学工学部水環境土木工学科3年生で、1年間のマレーシア留学から帰国したばかり。塩尻DAOでは、コミュニティーデザイナーとして、「コミュニティーはどのように活性化するのか、活性化するために何が必要かを可視化するためにアンケートを分析したり、今回のありがとうポイント制度の設計などに取り組んでいます」と自己紹介。まずは塩尻DAOの説明からスタートしました。

かぶっち: 改めて塩尻DAOとはどういったものになりますか?

Koichi: 長野県塩尻市で活動している関係人口のオンラインコミュニティです。関係人口というのは、その地域に住んではいないけれど、その地域のことが好きでよく通ったりとか、復業したりといった人材のことを指します。塩尻市では、関係人口創出に力をいれており、これまで様々なプログラムを通じてたくさんの方が関係人口として塩尻に関わっています。塩尻DAOは、こうした関係人口と地域住民との共創を推進するために立ち上がったオンラインのコミュニティです。メンバーは現在40人ほどいて、人材マッチングなどの事業を行うNPO法人MEGURUが運営しています。ブロックチェーンという技術を使って、DAOメンバーに関わっていただき、関わった分だけ報酬が出るようなコミュニティーにできたら、というところを目指しています。

「ありがとうポイント」って何?

かぶっち: さて、パッと聞くとシンプルでわかりやすいけれど「ありがとうポイント」って何ですか?

Koichi: 簡単に言うと、「コミュニティーの中で貢献した人に対してその分に応じたポイントをあげますよ」っていうものになっています。コミュニティーを活性化する施策として、立ち上げの際に課題として思っていたのが「プロジェクトの自発的な創出」になります。塩尻DAOのコミュニティーチームでは、「これを実現するには現実的な報酬や、(金銭的報酬に対する)意味的報酬がインセンティブとして必要だよね」という議論になりました。

そこで、報酬を与えるための基準を設け、それを達成したらポイントがもらえるというポイント制度をスタートしました。ただ、運用にあたり、ブロックチェーンに関する技術的課題や、実際に(暗号資産の)トークンを発行する場合に多くの法律の制約を受ける点、塩尻DAOが行政事業として運営されているため、自由に報酬などで使っていいのか、といったことなど様々な障壁があります。そうしたものに今後対応すべく、前段階としての仕組みとしてありがとうポイント制度を作りました。

かぶっち: 色々やろうとすると、法律面とか乗り越えないといけないハードルがあるんですね。今の段階は、何か貢献したときに「ありがとう」ということで、自分に報酬としてのポイントが入るような仕組みということですか?

Koichi: そうですね。たまったポイントをどうするかは議論中で、金銭的な報酬はまだ与えられない状況です。ただ、意味的報酬として、例えば、今月の貢献度が高かった人に対してはランキングで1位、2位などと報告させていただき、それに応じた証明書のようなものを発行する形をとります。

設計には専門人材や法的対応など複雑な配慮必要

かぶっち: なるほど。自分がどれだけ貢献したか可視化されるのは分かりやすくていいですね。コミュニティーとして判断し評価されるというのは気持ちの良いことと思いました。さて、今後進めていくにあたり、さらに改善していくために乗り越える、もしくは妥協しなければならないハードル的なものはありますか?

Koichi: 技術的なハードルがありますね。DAOのコミュニティーでブロックチェーン技術も必要なのに、塩尻DAOメンバーには技術者がおらず、手探りでやっているのはすごく面白いところですね。もっとも、Web3.0やブロックチェーンに関して知識を持つ人と話し合いなどができる機会があった方がいいと思うので、まずそういう人材が必要というところがポイントですね。

トークンに関しては、やたらと発行できないんですね。暗号資産交換業に登録しなければならないとなると手続きがかなり面倒になります。さらに、金銭的な報酬にしっかり結びつくようなシステムを作った場合、法律も引っかかってきて手続きが一層面倒になります。そうした線引きについても現在は法律家が組織におらず、どこまで進めてよいか分からないという点があります。

運営資金が十分に確保できているわけでもなく、塩尻DAOとして営利的な活動をして金銭を稼いでいるわけでもないため、専門家を雇う余裕はありません。また、現在は、塩尻市より委託を受けた関係人口創出事業の一環としてNPO法人MEGURUが運営しているため、活動の範囲が塩尻市に関係することに限定されます。収益の配分も難しく、制度上の問題があるという感じです。いろいろな側面で障害があり、それを一つずつつぶしていかなければいけない点が大変です。

かぶっち: 「ありがとうポイント」がやろうとすることのイメージは分かりやすいのですが、こうしたいという形に具体的に落とし込もうとしたときに、ものすごく大変そうな感じがしたんですけれど。

Koichi: 「ありがとうポイント制度」自体は簡単な仕組みで、トークンエコノミーを目指す方向を分解したときに最初の要素の部分だけ組み取っているような感じがするので。ただ、手動で実行している部分が多く、自分たちの目でDiscord上の活動などを見て記録しなければならないので、大変というのはありますね。

「意味的報酬」に加えて「金銭的報酬」付与に向けてのハードルは

かぶっち: まずここを乗り越えなければならないとしたらどのようなハードルですか?

Koichi: 現実的な話で、少子高齢化でどんどん人口が減っていく中で、地域に関わっていく強いインセンティブは何かといったら、やはりお金だと思うんですね。「好き」から入って、ちゃんと活動して、そこからしっかり報酬をもらえればすごく持続的にできるんですよ。その障壁を何とかするために、意味的な報酬で証明書を与えるのもいいのですが、やはり金銭的な報酬が出たほうがよくて、そこを私は突破したいなと思っています。

目指すところとしては、塩尻DAOの中でポイントがどんどん溜まっていき、そのポイントを地域の商品などと交換できるのが一つの理想ですね。

かぶっち: 普通のビジネスでもそうだけれど、持続的に関わっていくためには、確かに金銭的なインセンティブがあった方が長く関わっていけて「もっとコミットしよう」となっていくというのはありますね。制度設計をする中で、葛藤やここは妥協しなきゃ、というところがいっぱいありそうだけれど、日々それを整理している感じですか?

Koichi: 僕だけではどうしようもなく、コミュニティー全体で議論していかなければいけない話なのですが、自分ができることとしては、何が障害なのか一つ一つ確かめて、「こういうものが必要なんです」と提示し、必要性を訴えるところにあるのかなと。

増加する地域DAOに限界点はある?

かぶっち: 塩尻に限らず地域を舞台にDAOに取り組もうとすると、プロジェクトの限界点のようなものがあったりするでしょうか?

Koichi: 多分同じところで詰まると思っているのは、金銭的な方向性だと思っています。例えば今、各地でDAOプロジェクトが立ち上がっていますが、結構一過性のあるものだと個人的に感じています。NFTに付加価値をつけて、このNFTを買ってくれたら地域のモノがもらえたり、地域のコミュニティーに入れたりというところで新潟県山古志村のネオ山古志村(山古志DAO)を筆頭にブームになっていて、「これはいけるぞ」となっているのかもしれません。

ただ、DAOに入っていただき持続的に関わる際のインセンティブや制度設計を本当にうまく調整しないと、参加者が離れていったり、プロジェクトがつぶれていったりとかしてしまうと思うんですね。現に活動が静かになっているところもちらほらみられますが、打破するためには、結果的に良質なインセンティブの設計で対応することが一番重要だと思っています。参加者が自律的に動くシステムを真剣に考えていくと、トークンエコノミーの設計や、報酬が出るような仕組みに応じていかないと、長い目で見てまずいのかなというふうに考えています。

かぶっち: 確かに、「何とかDAO」が増えていて盛り上がっている感じはあるけれども、やはり人間だから飽きてくるというのがあると思います。手を替え品を替え、という部分がこの世界でもいるものなんですかね?

Koichi: そういう工夫がかなり必要だと思っています。例えば、このプロジェクトをうまく成功させたらNFTが発行され、それが「スキル証明書」のような形になって次のプロジェクトに入れるといった設計を組み込むことで持続的になるのではないかと考えています。

ポイントが循環するユーザーフレンドリーな制度設計が重要

かぶっち: 「ありがとうポイント」の制度設計などの経験を生かして、取り組みをより活性化したいっていうことを考えていますか?

Koichi: 「ありがとうポイント」について(DAOの)コミュニティー内であまり認知度や重要度は高くなくて、一体どうなるのか分からないところが多分にあると思います。ポイントを持っているかどうかは自分で確認できる仕組みになっているのですが、結局、皆さんそれを見ないと思うんですね。

現在は記録や管理を全部自分でやっているので、そこをもうちょっとデザインなどを工夫して、例えば、外部のアプリケーションなどを使って、自己申請制で進めていくのもありなのかなと。例えば「こういうタスクをやりました」という部分で、それを検証する人たちがいて、検証した人や承認した人が承認したらポイントをもらえるというように、皆さんにとって身近なシステムになればいいのかなというふうに思っています。
 いつでもDiscordの中で自分のポイントについてコマンドを打ったら見られるといった設計にして、もうちょっとユーザープレンドリーな形にできたらと。本当に通貨に近い形でポイントを持っている感覚で、溜めたいと思わせるようなシステムにしていきたいなと思っています。

かぶっち: 確かに身近に感じるというのはキーワードとして大事かもしれないですね。塩尻DAOの中では、どんなデザインが合うと思いますか?

Koichi: そこはまだ曖昧になっていることが多いのですが、塩尻DAOの大きな特徴として、「ここにいる関係性」みたいなところが強くあると思うんですけれど、結構メンバーの方々が塩尻市の関係人口として入った人たちが多く、信頼の高い人たちになっているので、その信頼関係みたいなものも何か使えないかなという風に考えています。

Discordで自分がこういうタスクをしましたというところで自己申告をして、それに対して、DiscordのBotを使って簡単に付与できるようなシステムとして、例えば絵文字で10とか書いている絵文字の額の分のポイントをあげられるような、ユーザーが主体的かつわかりやすいUIにしたいと思っています。人と人の関係性でポイントのやり取りができるような仕組みにして、一緒にメッセージも送らなきゃいけないような設計にしたら、メッセージとポイントがもらえるという仕組みになり、ポイントが循環すると。

ポイントを持っていても使わなければ意味がないので、例えば、何カ月以内に送らないとそのポイントが失効するという決まりにしたら、みんながコミュニティー内で貢献しようと思うようなインセンティビブにもなるし、働いたらちゃんとポイントももらえるような仕組みにもなるので、それで結構、信頼関係も強くなったりとか、ポイントが循環するでのはないかと。

かぶっち: 確かにそうですね。ポイントだけ貯めても使えないというのもあまり面白くないし、使うことで自分の貢献が他の人にも見えるというのはとても大事なことかなと思います。それぞれの地域コミュニティーでユニークな点というか、人や文化といった部分で特徴を出していくことは違いを出す意味で大事なんでしょうね。ありがとうポイントの構想的には結構入りやすいですけれど、ちゃんと関わる人に貢献していますよっていうことをちゃんと伝えていくシステムにする設計というのがやはり難しいんですね。

Koichiさんが関わっているプロジェクトがめちゃくちゃ奥が深いということがよくわかりました。今日は塩尻DAO日和の第8回目の放送で、内容はちょっと難しかったかもしれませんが、Koichiさんの課題意識やこうしたい、といった話を深く聞くことができました。ありがとうございました。

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塩尻DAOは、参加メンバー各自の能力や才能を互いに引き出しながら、地方創生やまちづくりの新たな方法を模索する実験の場となることを目指しています。

また、「塩尻DAO日和」では、今後も塩尻DAO立ち上げに関わる愉快でお茶目な面々をゲストにお招きして、わいわいガヤガヤな雰囲気を交えつつ、プロジェクトの現在地をお届けしていきます。stand.fmではバックナンバーも聴くことができます。ぜひ他の回もご一聴ください。

(文・構成: nasushin)

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