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巻き込まれることを楽しんだ塩尻滞在。考える環境におかれて見えてきた、地域でやりたいこと。

クラウドファンディングを通して2022年3月に書籍「いっぽ」を出版した、東京大学在学中の早川芽生さん(以下、めいちゃん)。「“まちづくり”とはなんだろう?」という疑問から塩尻に辿り着き、滞在4ヶ月間の出会いや感じたことをまとめた体験記です。

「塩尻では、楽しくいろんなことに巻き込まれて、“体験のわらしべ長者”のような体験ができました。塩尻は、これからの人生でも迷った時に帰ってきたい場所です。」と話します。

現在は休学して、全国各地で“体験のわらしべ長者”をしているめいちゃん。今回、塩尻に“帰ってきた”タイミングを見計らって、めいちゃんの塩尻との出会いや、塩尻で感じたこと、これからの挑戦について伺いました。(取材日:2022年8月25日)

【プロフィール】
ハヤカワ・メイ
愛知県出身。2022年3月、塩尻滞在の体験を中心に綴った「いっぽ」を出版。子どもたちに全国のゲストハウスを家や学校以外の「いばしょ」として提供する旅行企画のプラットフォーム「新世界への修学旅行」代表。東京大学在学中。

地域の活動家の話。何を言っているか分からなかった。

ーー現在は大学を休学中。いろんなところに訪問されているようですね。何をされているのでしょうか?

そうですね……。「何をしてるの?」って聞かれるのが一番返答に困っちゃうんですが、今は”ホームレスかつホームフルな旅人”って答えています。

塩尻以外にも、全国いろんなところを訪問しています。私の訪問先は、人がきっかけになることが多くて。今は、本を出すにあたって実施したクラウドファンディングで支援をしてもらった方を中心に、直接会いに行っています。

全国を転々としながら、行く先々でご縁をいただいた方に暖かく迎えてもらっているから、「お家はないけど、ホームフルだね」って言ってもらえて、気に入って肩書に使っています。

今回、1週間ほど塩尻に帰ってきたので、贄川地区にあるシェアハウスであり地域コミュニティでもある「坂勘」へ泊まったり、いろんな肩書の方が働いているコワーキングスペースの「スナバ」へ行ったりしています。

ーー塩尻との、出会いのきっかけを教えてください。

私は「坂勘」をきっかけに、塩尻に入りました。

塩尻市贄川にあるシェアハウス「宿場noie坂勘-sakakan-」

その時の私は「まちづくり」に漠然と興味があったのですが、よく意味を分かっていませんでした。そこで、地域に飛び込んでいかなくてはならないと思って、地域で活動されている方に会いに行っていました。

そこで辿り着いたのが塩尻のシェアハウス「坂勘」です。サイトを見て、なんとなく面白そうだなと思って、オーナーのたつみかずきさんに連絡を取ってみたら、オンラインで話す機会を設けてくれたんです。でも、地域のことを聞いてみたら何を言っているのか、さっぱり分からなかった(笑)。

聞き違いや、言葉が分からないっていう意味ではなくて、私は算数を解いているのに、たつみさんは大学の数学を解いている感じ。イメージが持てなかった。そのくらいレベルの違いを感じたんです。

なんだか悔しくて、これは現地へ行かないといけないと思いました。

自分から地域に巻き込まれていく。体験のわらしべ長者になる。

ーー「坂勘」きっかけで、2021年3月に、塩尻の地に降り立ったんですね。

最初に塩尻で過ごした2泊3日のことは、まだ覚えています。坂勘に行ったはずなのに、隣の平沢地区に何もわからないままに連れて行かれて、次の日は坂勘でイベントのスタッフをしました。

その後にスナバに連れてこられて。盛りだくさんすぎて、何が起きているのか分からなかったのですが、1ヶ月後、また来ると約束して東京に戻りました。

いろいろな肩書の人が集うシビック・イノベーション拠点「スナバ」

ーー1ヶ月後、塩尻に帰ってきて、そこから半年間滞在したそうですね?

4〜7月まではリモート授業を受けながら、8〜9月の夏休みはスナバでインターンをしながら、塩尻で過ごしました。

地域で活動されている方が、どのように何をしているのか知りたいから会いに行ったり、滞在した坂勘のシェアメイトの仕事をお手伝いしたり、イベントに参加したりしてました。

すると、その周囲にいろんな出会いがあって関係が広がっていくんです。そこから、さらに新しい体験をする。その連続でした。

ーーめいちゃんが、違和感なく地域に溶け込んでいく姿が印象的でした。

自分から、巻き込まれようとしていたからかもしれません。面白そうだなって思ったら、行ってみる。そこに行くことで何が得られるとか、得られないとか、あんまり損得を気にせずに、連れて行かれて巻き込まれていきました。

そうすると、結局やっぱり面白いことが起きるんです。体験の ”わらしべ長者“ のようになっていきます。必ずしも面白いことが起きるわけではないかも知れないけれど、捉え方次第ですよね。選んでいては、何にも出会えません。地域に住んでいる方には「そういう一見、意味のなさそうなことが、地域ではめっちゃ大事だよ」って言われたこともあります。

塩尻で得られたのは、自分で自分のこれからを考える習慣

ーー塩尻に来てから、得られたことはありましたか?

「自分がどうやって生きていきたいか?」「なんで大学に行くのか?」「自分はどういう状態が幸せなんだろうか?」など、自分の人生について、自分で深く考えるようになりました。

私だけでなく、私くらいの年代は、小さい頃から「人生の幸せとは、こういうものだ」という価値観を中心に ”与えられている” 状態の人なんだと思います。ほかにも、生き方の選択肢や、勉強する題材なんかも。その結果、自分から湧き出るものって本当に少なくて、それに対する課題感もあったんです。

しかし、塩尻で出会った人は “考えながら生きている ”人ばかりだったんですよね。ここにいる人達は、時に悩むこともあるけれど、すごく幸せそうです。

体験をまとめた本を出版。地域の方のアドバイスを参考に。

ーー2022年3月に書籍「いっぽ」を出版した経緯を教えてください。

塩尻で得たものは、しっかり形に残したいと、もともと思っていたんです。それでも、本というアイディアはありませんでした。

最初はnoteに、塩尻で感じたことを少しずつアウトプットしていたところに、「本をかいてみたらいいんじゃない?」って誰かに言われたんです。そこから周囲が勝手に『もしドラ』みたいな『もしも女子東大生が田舎町のシェアハウスに居候したら』っていうタイトルを考え始めていました(笑)。結局そのタイトルにはしなかったんですけど。

9月になったら大学の夏休みが終わって、授業が開始するから東京に戻らなくてはいけない。それに合わせてアウトプットとして noteに超大作を書くのか、論文みたいなものを書くのか、考えていたところに本という案が出てきたので、書いてみようと思いました。

ーー出版に向けて、動き出したんですね。

出版を決めたものの、出版する方法が分からないので、「全くわからないです」ってFacebookに投稿しました。そうしたら、地域で出会ったいろんな方がコメントを残してくれたんです。

「藤原印刷さんっていう松本にある印刷会社さんが、個人の出版にも伴走してくれるらしいから、ここならやってくれるかもよ」ってあって。そこからスタートしました。あとは、資金調達についても分からなかったけれど、坂勘でつながった方が、クラファンのアドバイザーにつなげてくれたんです。

「いっぽ」出版に向けたクラウドファンディング

ひたすら数珠つなぎのように、半年間の塩尻で出会った人たちが、私に知識や人をつないでくれました。

ーー本を書いてみて、いかがでしたか?

紹介するものができたのは、やっぱり大きいですね。本をきっかけに興味を持ってもらえるので、名刺のような存在です。

また、地域で感じたことは、とても価値があるので、まとめられてよかったですし、地域出身の方に、地域の面白さを改めて捉え直してもらえている様子もあって嬉しいです。

気づいたことは、大学の友達にとっては、本という“形“になったことにインパクトがあって、そこを褒めてくれるのですが、現地で活動をしている地域の方は、“内容”に共感して褒めてくれます。

学術的な内容ではないですし、簡単な言葉を使って書いているので、内容的にはまだまだな部分は多いのですが、私が地域で尊敬している方々に、面白いって言ってもらえて嬉しいです。違うと思ったら「違う」と言ってくれる方々なので(笑)。多少なりとも認めてもらえたことは自信になりました。

あとは、簡単な言葉で書いたつもりですが、多少でも地域で活動していないと、本の内容は届かないものだとも思いました。「地域に関わっていなくて、本だけを読んだ」の状態では、先ほどの ”与えられている” 状態であって、多分実感が湧かないんだろうと思います。

ーー今後、挑戦したいことは、ありますか?

“まちづくり” に興味があって地域に飛び込みましたが、“まちづくり” そのものに興味があるわけじゃないという気づきはありました。どこかに住む以上、地域には関わる。だからこそ、まちづくりは、活動の土台となる概念だと思います。

最近は、自分は何をしていこうか、ずっと前向きに悩んでいて、そこで出会ったのが「新世界への修学旅行」というプロジェクトです。

新世界への修学旅行

不登校などで「居場所がない」と思っている子どもたちに、自宅や学校以外の「第三のいばしょ」としてゲストハウスを修学旅行先として提供する活動で、ゲストハウスのオーナーさんたちと話を進めています。

ーーなぜ取り組むことになったんでしょうか?

日常で、どこにも ”雨が降っていない状態” って、運がいいだけなんだと思っています。しかし運だけで、生活する場の天候が決まってしまうのは、本当に切ないこと。私はゲストハウスを巡って、楽しいと思えることが多かったので、雨宿りできる場所として共有したいという思いがありました。

あとは、公教育に対する漠然とした違和感があったからです。みんなレールに乗って、とりあえず大学に行って、やりたいことは分からないけれど、3年生になったら就活するのが普通とされていることに、悩んでいる学生って多いんです。先ほどの ”与えられている” 悪い状態に、はまってしまっている。

その辺の価値観や興味が、このプロジェクトに出会った時に、全部つながった気がしました。

ーーその先のビジョンなども、あるのでしょうか?

あんまり具体的なビジョンはないんです。あまり「これだー!」っていうビジョンはないけれど、なんとなく見えてくるような、気がするような気がしないような……。常に迷い続けています。

あえて言えば、私がなりたいのは、地域の課題解決のために政策実装を目指す「政策起業家」のような存在かもしれません。

地域で起きているローカルな課題の抽象度を上げて、応用できるように普遍化させたら、他の地域でも、その地域に合わせて具体的な方法で落とし込めるような仕組みを整えていくイメージです。

ーー地域に飛び込んだことで、未来が見えてきためいちゃん。そんななか、今後の塩尻との関係性は、どのようになっていくのでしょうか?

塩尻は、新しいことを始めたい時、なにかに迷った時などに必ず帰ってくる場所です。考えを整理してもらうために質問の壁打ちをした結果、泣くしかない時もあるけれど。

陳腐な表現になってしまうけれど、心の支え。他の地域に飛び込む時も「塩尻ではどうだったっけ」って思い出すことが多い。ここがあるから外に出られるんです。

今後も、なにか自分にできることで塩尻に関わり続けたいと思っています。

(取材・構成/竹中 唯)

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