故郷の関係人口となり参加。仲間に出会って「塩尻のいいところ」や「思考の死角」に気づいた。
塩尻市出身である中村千鶴さん。2019年に開始された「塩尻CxO Lab」1期から、東京に住みながら塩尻の関係人口となり、塩尻への愛を育んでいます。
「CxOラボを終えた後は、塩尻のことが大好きになりました。特に塩尻ワインは、個人的に店舗営業するほど、のめりこんでいます。都内のお気に入りのお店に、塩尻ワインをPRして置いてもらっているんです。」と中村さん。さらに東京に住む友人を、塩尻のワイナリーや観光スポットへとアテンドしており、友人の間では「塩尻観光大使」と呼ばれています。
「今後は参加するだけでなく、関係人口が参加できる場を醸成していきたい」とも話す中村さん。故郷である塩尻において改めて感じた魅力や、気づき、理想の「場」について伺いました。
【プロフィール】
なかむら・ちづる
塩尻市北小野出身。電機メーカーで法人営業を担当。2020年より塩尻CxO Labに参加。SHIOJIRI WINE CIRCLEメンバー。グロービス地域活性化クラブに感銘を受けて、山口有里さんにアドバイスを頂き、中央大学ビジネススクールでローカルアップデート部を立ち上げて、地域活動を開始。
故郷である「塩尻」の関係人口となる
――「塩尻CxO Lab」に参加したきっかけを教えてください。
現在は東京に住んでいるのですが、地元は塩尻市の北小野地域です。
故郷から離れて10年以上経って、地元に貢献できるものを探していました。
調べていたら、塩尻市は関係人口創出イベントや、シビック・イノベーション拠点「スナバ」などが生まれていると知り「塩尻市が、面白くなってきている」と感じました。すぐさま、当時は塩尻市の地方創生推進課であった山田崇さんに、「私も関わりたい」とTwitterのダイレクトメールを送ったんです。すると山田さんが「塩尻CxO Lab」を紹介してくださいました。
――「塩尻CxO Lab」の第1期に参加。どのような活動をしましたか?
ワインを飲んだ時に感じる、香りや味覚をビジュアル化するアプリ「WaiNari(ワイナリ)」活用について、仕様書をつくりました。この活動は、今でも私が参加している塩尻市公認サークル「塩尻ワインサークル」や、参加型ブドウ畑「コミュニティヴィンヤード」の原型です。
▼ワインのおいしさを見える化するWaiNari:
▼「仕様書」作成とは?塩尻市・関係人口創出事業ってなんだ?:
あとは、塩尻ワインへの気持ちが高まって、都内のお店に塩尻ワインの営業もしていました。これは「塩尻CxO Lab」と関係のない、個人的な活動です。BAR、居酒屋さん、お寿司屋さんに置いてもらっています。
私のお気に入りのお店で、お気に入りのワインを、友人と飲む。友人にも塩尻を好きになってもらえるんです。最高の時間を作れていますね。
改めて見えた塩尻のいいところ
――故郷である塩尻に、今までとは異なる角度から参加しました。改めて見えた塩尻の魅力はありますか?
住んでいた時には見えなかったものが見えています。
塩尻市は、関係人口や移住者が多く、活気があるように感じます。
私にとって素敵な故郷でもありますし、進行形で関わっていたいと感じさせる、不思議な地域ですね。
昔は出身地を聞かれたら「どうせ塩尻なんて知られていないだろう」と思って、「(隣の)松本の方」と答えていたんです(笑)。
しかし、今は堂々と「塩尻」と言えるようになりました。
「知らない」なんて言われたらしめたもの。塩尻PRを始めます! 塩尻は、日本の中心、そしてワインの名産地、人がいい、活気が良くてイケてる人がたくさん集まってくる、と紹介します。
そうするとみんな「行きたい」って言ってくれるんです。
塩尻ワインを置いてもらったお店のオーナーにも、塩尻を好きになってもらえたので、塩尻のワイナリーツアーをしました。ほかにもワイン好きの友人を連れて、ブドウ農家の方と交流してきました。勝手に塩尻ツアーを作って巡っています。
――紹介したいほど塩尻のことを好きになれたのですね。
離れたからこそ見える良さもあると思いますね。住んでいる時には当たり前すぎて、見えていない魅力があったんだと思います。
だから地元の方には、塩尻を楽しむ動きに、もっと巻き込まれてほしいと思います。一緒に盛り上がってみることで、故郷がより面白く見える。
そうすると、外からもっと面白そうに見えて、もっと人が引き寄せられる塩尻になると思います。
仲間と出会って、思考の死角が狭まった越境学習
――外から塩尻に関わってみて何か得られたことはありましたか?
仲間が増えましたね。そして、塩尻に関わらなければ知り合えなかったであろう仲間は、人生を豊かにしてくれました。
参加者や塩尻の方、スナバメンバーもそうですが、個性的で面白いじゃないですか。それぞれから、さまざまな意見が出るんですね。みんなでアイディアをブラッシュアップしていく過程は、まさに知識創造。面白かったですね。
――所属する組織の枠を越えて学ぶ、越境学習ができていたんですね。
私は1つの会社にずっと勤めているのですが、どうしても考え方が偏ったり、自分の考えが普通だと思ってしまっている節があると思うんです。
異なる社会と接点を持つと、「思考の死角」が狭められる感覚があります。
そして、気付きはポジティブなものだけではありませんでした。
意気込んで貢献できると参加したのですが、実は貢献できない葛藤があったんです。
「ワインを若者にもっと売り込みたい」と思ったとき、なかなか販売戦略が出てこなくて「力不足だ」と思いました。しっかりと学んで、貢献したい気持ちが生まれましたね。その後、大学院に入学し、そこから2年間MBA取得のために学んだのですが、その挑戦の大きなモチベーションにもなりました。
塩尻で、参加者から運営者へ
――今後、中村さんの活動はどうなっていくのでしょうか?
越境学習の場を、塩尻で作っていきたいと思っています。
今度は参加者ではなく、運営者として塩尻に関わりたいんです。
実は、すでに長野県の飯島町で、会社の有志を集めて地域活動を行いました。私は塩尻市で出会った方と一緒に、運営者を務めました。
このプロジェクトは、地元の農家さんや事業者さんなどにヒアリングしながら、名産品を作るもの。出来上がったワーケーションサービスは、リリース開始に至りました。
参加者に、感想アンケートを取ってみたところ「アイディア出しなど普段経験しないことを挑戦できた」「普段の業務とは全く違うので、自信が持てるようになった」「チャレンジするのに恐怖心がなくなった」などと回答があり、参加者の皆さんがプロジェクトの過程で得られたものが大きかったことが分かりました。
「塩尻CxO Lab」や飯島町の地域活動で感じられたのは、「いろんな方の意見が交わって、化学反応を見られることは最高」ってこと。それを生み出す場にいたいんです。
――今後作り出していく越境学習は、どのような場が理想だと思いますか?
「心理的安全性」があって、コミュニティ間の境界をつなげる場である「バウンダリーオブジェクト」となるのが理想です。
例えば、「塩尻CxO Lab」や「スナバ」は、どんな意見を言っても絶対に受け止めてくれる安心感があります。
心理的安全性が醸成されているじゃないですか。心理的安全性があれば、アイデアを出し合ってスケールアップしながら、みんなが楽しめると思います。
心理的安全性は、作ろうとして作れるものじゃないので、なぜそれが作れているのか、本当に不思議です。
――千鶴さんが、心理的安全性やバウンダリーオブジェクトを醸成する存在になっていくのかもしれませんね。どのようなプロジェクトが起こっていくのでしょうか?
私がなれたら最高ですね。塩尻で出会った方は、みんな自分の意志で踊れていました。私も、みんなが踊れる場を作りたいです。
プロジェクトは、まだ構想中。大学院でも地域創生活動のクラブを作ったので、社内の有志だけでなく、いろんな仕事に従事されている方が対象者になります。それぞれの得意を生かしたものが、いいのかもしれませんね。
個人的に気になっているのが、日本のGDPを20%担っている製造業に携わるプロジェクト。私は「日本の製造業を盛り上げる」を自分のミッションだと勝手に思っているんです。
製造業は、ものを提供できるまでのバリューチェーンが長い。1つ欠けても商品になりません。
どこかだけが得するんじゃなくて、みんなで盛り上がれたらいいなと思うんです。コロナで供給が滞った時に、すべてのセクションがありがたい存在なんだと、改めて感じられた方も多いのではないでしょうか?
そして長野県の中南信地区は、製造業が盛んなところ。塩尻でいうとワイン、漆器、精密機械工業などがありますよね。「日本の製造業を盛り上げる」ことに興味のある方と繋がれたら嬉しいです。
(取材・構成/竹中 唯)
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