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≪塩尻アーティスト・イン・レジデンス特集≫
ANAによるアートプロジェクトANA meets ART "COM"の一環として、2020年より行われている塩尻アーティスト・イン・レジデンス(塩尻AIR)。
この特集記事では、2021年、塩尻に滞在しながら制作活動やリサーチ活動を行った4人のアーティストと地域の関係者にインタビューを行い、アート×地域の未来の関係性を探りました。

2021年度 ANA meets ART “COM”
https://www.ana.co.jp/ja/jp/domestic/promotions/ana_art_com/shiojiri/
Instagaram:  https://www.instagram.com/ana_art_com/

2021年12月『人生』という音楽をリリースした、ミュージシャンの夏目知幸さん。
アーティスト・イン・レジデンスの滞在では、「こめはなや」に滞在した。10年間にわたるシャムキャッツとしてのバンド活動を停止した後での塩尻市小野での滞在は、東京から物理的にも精神的にも距離をおいた時間だった。

―― 今回のアーティスト・イン・レジデンスでは、なぜ塩尻を選んだのですか?

(夏目さん)広島、鳥取と候補地がある中で、長野にはゆかりがありました。バンド活動をしていたときに松本にも行ったことがあるし、祖母の故郷が辰野ということもあり、長野の人の接し方だとか、テンションを肌で実感していました。それが塩尻を選んだ理由ですね。

長野の人は、そそっかしくて優しい。物事を解決する瞬発力があると感じています。
テレビゲームに例えると、RPGゲームのように戦略を立ててから立ち向かうのも得意なんだけど、シューティングゲームみたいに、その場の瞬時の判断で先に進む事も臆さない。

―― そそかっしくて、優しくもあるのですね。

(夏目さん)長野には温泉も多いし、山もある。観光地化されている場所も多くあり、人を受け入れる寛容さがあると思います。人の話をよく聞くけれど、全てにいい顔をするわけではないかな。

―― 他になにか気がついたことはありますか?

(夏目さん)僕が滞在したのは小野だったので、塩尻の街中とは違うんですよね。人間同士の話が薄れるというか。
猿とか、シカとかカモシカが出るとかっていう話を聞いたりして。
東京ではないじゃないですか?人間の話が薄まって、煩わしさがないと言うか。人間、人間してなくて、居心地が良かったです。

―― カモシカも出るのですね。

(夏目さん)シカは普通に出ます。

―― 滞在中はどのような作品を作ったのですか?

(夏目さん)小野って、東京より、光量がすごく多いんですよね。湿度があって、標高が800メートルとかあって、光が集まっている。世界の街ってそれぞれに光が違うと思うんですけど、小野の光はすごく明るくてきれいで。小野の山もその光があたって緑がすごい緑で。

そんな環境の中にビニールハウスがあって、透明だし、暖かいし、でもビニールだから自然にはない物質でできてる。
なにか田舎にあるのは違和感を感じて。夜のビニールハウスに昼の街の光を入れたいと思って作品を作りました。レコードが(ポリ塩化)『ビニール』で出来ているあたりとか、ハウスミュージックの『ハウス』にかけ合わせた部分もあります。

音の要素としては、空気感がでるように、シャラシャラとした音を使っています。何かにぶつかる大きい音、例えば雷の音とかの低い音、バスドラムとかの音になったりするかと思うんですけど、そういう音は使ってないです。

―― 塩尻での滞在を通して自身が変わった部分はありますか?

(夏目さん)うーん。変わったことは確実にあるんですけど、言語化するのが難しいですね。
今ってインターネットがあるから、なんでも距離が近く感じられると思うんです。SNSも身近だし、離れることも精神的に難しかったりする。物理的に距離を置くことで、インターネットとの距離をおけてよかったです。
SNSは常にひと目にさらされるものなので、やっぱり疲れますよね。

ちょうどバンドの活動をストップして、自分のことを考える時期でもあったので、小野では、その距離感をとる練習ができたと思います。東京に帰ってきてからもまあまあうまく距離が保たれている気がします。

―― 『人生』というタイトルの音楽をリリースしたんですね。

(夏目さん)あまり重くは考えずに、大喜利のようなところはあります。30代半ばで『人生』というタイトルもいいかなって。

今までは、架空の人物を想像し、それから想像を膨らませたほうが、誰もがどこか感じることができる音楽を作れるとおもっていたのですが、ここ1・2年で、自分が思ったことをただ言ってみようと思うようになりました。
でも、自分は何者で何をしていて、どういうふうに生きているのか。
自分の事を言えないと新しい人にあったときに説明ができないと思います。

―― 「自分は何者で何をしていて、どういうふうに生きている」のでしょうか。

(夏目さん)自分はミュージシャンで、音楽を作って生きていこうとしています。そして人にエネルギーを与えたいと思います。音楽活動以外にも、コラージュをやったりとか、インスタレーションをしたりもしていて、自分が動くことで人々にポジティブな動きが出るといいと思っています。

運命に逆らうという意味がある「アンチ・デスタン」という言葉があります。例えば、ある人が船旅である島に辿り着いたとして、岸辺に置いてあるただの石を見つけたとする。普通そこで人は素通りします。
でも、それが人の形をした石になっていたら、それを見た人は「これ何だ?」と思いますよね。

音楽も、そう言うふうに人の感情を沸き起こし、行動をおこさせるものです。自分が動くことで、周りも動く。会社員とか、社会で働いている人と一緒です。

▼交流した地域の人:


夏目 知幸
なつめ・ともゆき / 東京を中心に活動するミュージシャン。
2020年にそれまで在籍していたオルタナティブ・ギターポップバンドのシャムキャッツが解散。個人では楽曲提供、DJ、執筆、コラージュ制作など表現形式にとらわれず多岐に活動。
自主レーベル〈TETRA RECORDS〉にてリリースやマネジメントも自身で行なっている。近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的に行い各地のアーティストと交流を深める。

HP https://summereye.net/
Instagram @s.e.ntm
Twitter @natsumetomoyuki

(取材・構成/ヒロイ クミ)



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