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自然の営みを感じられる感性を育てながら作物を育てて、それを売る — 自給の生活って暮らし全部が表現よ。

≪塩尻アーティスト・イン・レジデンス特集≫
ANAによるアートプロジェクトANA meets ART "COM"の一環として、2020年より行われている塩尻アーティスト・イン・レジデンス(塩尻AIR)。
この特集記事では、2021年、塩尻に滞在しながら制作活動やリサーチ活動を行った4人のアーティストと地域の関係者にインタビューを行い、アート×地域の未来の関係性を探りました。

2021年度 ANA meets ART “COM”
https://www.ana.co.jp/ja/jp/domestic/promotions/ana_art_com/shiojiri/
Instagaram:  https://www.instagram.com/ana_art_com/

北小野にある「こめはなや」を営む小澤なおこさん。
薪ストーブがパチパチという音をたてている。窓からは、畑が広がり、その畑の中に温室がひとつ建っている。キッチンから、漂ってくる香りが香ばしい。なおこさんはマコモと番茶を混ぜたという手作りのお茶を入れ、りんごを剥いてくれた。

―― お茶もりんごも美味しいです。

(小澤さん)マコモは、水辺に群生するイネ科の多年草植物で、血液を浄化して、免疫力を強める力があるの。りんご、美味しいでしょう。
長野の知り合いからもらった、りんごなんだけど、美味しすぎて。これを食べたら他のりんごは食べられないね。

―― 甘くて美味しいです。そして眺めも良くて、長居してしまうような空間ですね。

(小澤さん)今は田んぼと畑の仕事が忙しく、残念ながらカフェは閉店中なの。でも、月に一回お弁当とおむすびを朝市で売ってるの。キッチンは間貸ししていて、彼女は美味しいお菓子を焼いて朝市でも販売してる。

―― 畑と田んぼもやってらっしゃるんですね。

(小澤さん)店をやりながら、田んぼ、畑を自然栽培で育てているの。
自然栽培という呼び方に異議を唱える人もいるけど、簡単にいうと、肥料・農薬には頼らない方法。以前は有機栽培をしていたのだけど、自然栽培では、有機肥料なども使わない。

自然のなかには太陽や水、空気や微生物が存在して、その微生物がふかふかとした土をつくる。自然本来のちからを尊重し人間もその生態系の一部だと捉える農法なの。
現在起こっている様々な問題は、人間が自身のちからを過信しすぎて、過度に自然に干渉しているから起こっていると思う。

そういえば昨日知り合いからワインをもらった。すごく美味しいんだけどすこし飲む?ベリー・ビーズ・ワイナリーっていうんだけど。

―― いただきます。すみません色々いただいてしまって。
すごく飲みやすいワインなんですね。ラベルには、葡萄の種類や収穫日だけでなく、栽培で使われている有機農薬や醸造に使われている酸化防止剤の種類まで細かく記載されてます。
さて、夏目さんが滞在された際のお話をおききしたいのですが、太陽光発電整備の計画があった場所に、一緒に行ったと聞きました。

(小澤さん)そうなの。「蝶の森」と名付けられている2ヘクタール程のにれ沢の森に、そのころ太陽光発電整備をたてる計画があって、その計画の反対運動をしている最中だった。

―― 反対運動。大変そうですね。

(小澤さん)大変よ。だからやるのは嫌だったんだけど。でも、反対だけするだけでは話がすすまないから、複数の地主さんに、計画を白紙にもどすかわりに里山整備をすることを提案したの。
森には、柴栗の変異体であるしだれ栗が育っているし、色とりどりの蝶が住んでいる。森の手入れをして、美しい環境を取り戻すことを提案したの。夏目さんとは、そのにれ沢の森へ鳥の観察会に行きました。

―― 鳥の観察会では、夏目さんはどんなことに気がついていましたか?

(小澤さん)音楽をやっている人は、耳が違うね。私には聞こえないような遠くの音が聞こえるみたい。繊細な人だなとも感じました。

―― このカフェから見える、温室でインスタレーション作品が発表されたんですよね?

(小澤さん)ここから見えるあの温室に、ミラーボールを吊り下げて、私の飼っている猫の写真などを飾ってインスタレーションをしていました。
温室の中のミラーボールがキラキラ光ってとても綺麗で、猫の写真も可愛かった。

二回目のお喋り会は、残念ながら参加できませんでした。でも、参加した近所のおばさんたちは、若い人が来てくれるとイイねーと話していました。十一月だったのに、おこたに座椅子で寒くないかなと思ったけど、彼は、風や空気を感じながら話していたのでしょうね。
夏目さんは、お話上手で、参加者はみんな引き込まれていたと聞きました。自分が新鮮に感じられないような日常を楽しんでいる様子をみることは楽しいよね。

―― 夏目さんは、「空気が澄んでいて、光がパーンを明るい」とこの街の印象を語られていました。

(小澤さん)ここから見える峠の向こうは、フォッサマグナの溝で、6000メートルくらい深く落ち込んでいるの。その断層を通して、地下奥深くの水や空気が湧き出ている。
このあたりは、フォッサマグナと、中央構造体(明治時代、地質調査中に発見された、西南日本を縦断する大断層)とが交差する地点だと言われているの。大地、自然界の新陳代謝が大きな場所だから、生態系の多様性が見られる場所でもあるの。

―― 多様な生態系の背後には、この場所の、空気と光があったのですね。人間社会や街づくり、そしてアートにも多様性の重要性が問われることが最近は多い気がします。小澤さんにとってアートとは何ですか?

(小澤さん)兄は映画美術、妹は七宝焼きと美術関係の職についていたりするんだけど、私には美術は詳しくなくて。

でも農業は総合芸術だと思ってる。自然の営みを感じられる感性を育てながら作物を育てて、それを売る。それってすごくクリエイティブな営みだと思う。自給の生活って暮らし全部が表現よ。コーヒーとチョコレートも食べる?

―― いただきます。すみません。色々いただいてしまって。すごく心がこもっている味がします。

▼交流したアーティスト:


こめはなや
HP http://www.komehanaya.com/

(取材・構成/ヒロイ クミ)

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