塩尻CxO Lab現地フィールドワークvol.3~市内農地めぐり~
こんにちは、のりしお編集部・上田です。
今回は、2022年10月1日~2日に行われた関係人口コミュニティ「塩尻CxO Lab」の現地フィールドワーク第三弾の様子をお届けします!
フィールドワークでは、「現地を訪れ、そこで活躍する地域プレーヤーと接することで地域の魅力や課題(=関わりしろ)を発見する」ことを目的に、伝統工芸・市内中心エリア活性化・空き家利活用・農業の4つのテーマを設け、数名のグループに分かれて市内各地を訪れました。
この記事では、農林課の亀岡さんに案内いただき、市内の農地を巡ったフィールドワークの様子をお届けします。
レタスと葡萄の一大産地・塩尻
長野県のほぼ中央に位置する塩尻市は、恵まれた気候、交通の利便性から、広範囲にわたって3大都市圏へ供給する農産物が栽培されています。
レタス・キャベツなどは、県下トップ水準の生産量で、昼と夜の寒暖差や雨がさほど多くない気候を生かした果樹栽培も盛んです。
特に葡萄は130年の歴史があり、市内17のワイナリーで醸造されるワインは国内外のコンクールでも高評価を受け、日本屈指のワインの銘醸地として知られています。
今回のフィールドワークでは、古くからのワインの生産地・桔梗ケ原が位置する宗賀地区、レタス畑の広がる洗馬地区、セイコーエプソン(株)のそびえる市街地域・広丘地区を経て、松本平を見下ろし北アルプスを望む東山山麓線が走る片丘地区から、果樹栽培の盛んな塩尻東地区までを巡りました。
「農業は科学」洗馬のレタス農家さんに聞く農業のお話
秋晴れの中、えんぱーくを出発し、一面の葡萄畑が広がる桔梗ヶ原を抜けて、洗馬地区でレタス農家を営む青栁さんを訪ねました。
神奈川で理学療法士をされていた青栁さんは、実家のレタス農家を継ぐためにUターンし、現在はご両親、義理の弟さんの4人の家族経営で4ha(約40,000㎡)の畑を春作秋作で二毛作、休ませる畑と分けて7haほど使ってレタスやキャベツを作っています。
最初に見せていただいたのは、作付計画表です。A4一枚の用紙に、播種・定植・収穫の時期や、土、使用するマルチの種類などが細かく書き込まれていました。
農業は勘と経験がものを言う世界だと思われがちですが、生産工場のように緻密な年間計画に基づいて運営されていることに、参加メンバーからは驚きの声があがりました。
「昔とは売上の単価や必要なコスト、気象条件も変わってきているので、感覚に頼るやり方では難しくなってきていると思います。きちんと計画し、コントロールして栽培することによって、Lサイズの一番良い規格のものが出せているんだと思います。作業効率があがることで収量も増えるから、入ってくるお金も多くなる。」
「農業は科学だと思うんです。天候などには抗えないけれど、自分たちがコントロールできる部分は計画してきちんとやっていかなければならないと思う。」
青栁さんは言います。
自然相手だからこそ、感覚に頼るのではなく、きちんとPDCAを回して仮説検証と改善を繰り返していく。どんな仕事でも、変化への対応と地道な努力が欠かせないのは同じだということを改めて感じました。
気候変動、コスト高、人手の確保・・・現場のリアル
農産物はJAによって買取価格が決められているため、気候変動や資材の高騰などでコスト高となる中、利益を確保するのが年々難しくなっている、と青栁さんは言います。
最近はインターネットを使った様々なサービスが増え、消費者とつながって直接販売も可能になりました。
しかし、発送や支払いなどの煩雑なやりとりにコストがかかり、その割に量は出ないため採算が合わず、直接販売のみで経営を成り立たせるのは現実的ではありません。
機械化を進め、同じ野菜を大量に作り、大ロットで販売するのが最も作業効率がよくなります。しかし、大規模化するためには人手の確保の問題が出てきます。
家族経営でやってきた多くの農家さんにとっては、人を雇って指示を出しながら分業で作業を行うというのは中々ハードルが高いものです。
ここで参加メンバーから、
「大規模な農業法人を増やせばよいのでは?」
との質問があがりました。
農業法人とは、法人形態によって従業員を雇用して大規模に農業を営む法人のことです。しかし、自然を相手にした農業という働き方に、”雇用”という形態がマッチするのかという点で疑問がある、と青栁さんは言います。
農業には、一年の中に繁忙期と閑散期があります。例えば、レタス農家では冬は閑散期となるため農作業はお休みになり、青栁さんの場合はアルバイトなどに出たり、冬の間は完全休業して旅行や趣味を楽しむ人もいらっしゃるそうです。
しかし法人化すると、従業員の生活を支えるためには仕事が無い時期にも給料を支払う必要がでてきます。
また、労働時間に関しても、定時勤務というわけにはいかず、夏場は4時起き、4時半出社など不規則になります。休暇の取得も、自然相手となるため気候や生育の状態で事前に予定を立てることが難しくなります。
さらに、分業するためにシフト組んで、休暇を入れて、となってくると管理が煩雑になり時間をとられてしまうという問題も出てきます。
小さい農家さんで量を作れないのも厳しいし、一方で大規模に法人化してやっていこうとすると人の雇用など別の課題が生じてくる・・・
現時点で青栁さんは、阿吽の呼吸で動ける家族経営で、3~4人で回せるのが一番良いと考えておられるそうです。
必要なときに必要な人手が確保できれば一番良い、そのために、塩尻市では「ねこの手クラブ」という、農業を体験したい人や農家への支援を希望している人と人手が足りず労力確保に困っている農家さんをマッチングする仕組みを作っています。
それでも、繁忙期には十分な人手が確保しきれないというのが現状だそうです。また、レタスの収穫は葡萄などに比べて難易度が高くコツがいるため、品質確保のためには手伝ってくれる人も誰でも良いというわけにはいかず、人の確保にはやはりたくさんの課題が残っているというお話でした。
仕事としての農業の魅力
農業の後継者不足の課題についてもお話していただきました。
青栁さんの知人、友人で実家の農家を継いだ人はほとんどいないそうです。
新規就農を目指して移住してくる方も増えてきていますが、生活を支えるための収益を上げていくのがなかなか厳しい現実を前に、余程の志をもち、覚悟を決めて就農する人以外は継続できずに出て行ってしまう人も多いと言います。
後継者不足で耕作放棄地が増える中、管理できる範囲で現役農家が畑を広げていくのが一番良い。そのためには、後継者づくりのために、先代が農業の魅力をもっと伝えていく必要があるのではないかと青栁さんは考えています。
青栁さんはお父さんを見ていて、農業は働けば働いただけ収入が得られ、お金の心配をしなくてもよいのが魅力だと感じ、Uターンを決めたそうです。実際に、今はサラリーマンをやっている時のようにお金のことに頭を悩ませず、趣味の車を楽しむ余裕ができたと言います。
また、農業は、自分で計画して物事を進めていける楽しさがあり、自分で何かやっていきたい人には向いている職業だと感じておられるそうです。農業で収入を得つつ、閑散期を利用して自分がやりたい別のことをやるということもできそうです。実際、青栁さんは理学療法士の経験を活かして起業し、農作業の手が離れた時期には施術体験のサービスを提供をしているといいます。
人口減少、耕作放棄地の増加・・・よく耳にする地方の課題ですが、こうやって現場で生の声を聞くことで、色々な問題が絡み合い、単純に解決策を見出すことが難しい現状が見えてきます。
一方で、青栁さんのように、農業を生業として選び、いかに活路を見出していくか戦略を練って実践していらっしゃる若手農家さんの存在をとても頼もしく感じました。
ワインの新興の地 片丘~柿沢エリアへ
話が盛り上がりすぎて予定していた時間を大幅にオーバーするなか、一同は次の目的地を目指します。
途中、「今井恵みの里」という産直市場に立ち寄り、旬の果物が並ぶ様子を見学します。場内は旬の葡萄を買い求める人で大混雑でした。
市場を出て、市街地・広丘エリアを抜け、松本から塩尻にかけて山麓を走る風光明媚な東山山麓線に入ります。
高ボッチ山の西麓に位置する山麓線沿いは、標高が桔梗ヶ原と同じ750mほどあり、近年メルシャンや新興ワイナリーさんの新たな圃場ができてきたエリアです。
眼下には松本平を見下ろし、天気の良い日は北アルプスがくっきりと望める絶好のドライブ・ルートとなりますので、車でお越しの際はぜひ訪れてみてください^^
あっという間にランチタイムとなり、山麓線を抜けた先にある柿沢地区のサンサンワイナリーを目指します。
サンサンワイナリーには、生産されたワインが購入できるショップのほか、葡萄畑を望むテラスで焼きたてピザが楽しめるレストランが併設されており、お天気の良い日には最高のランチスポットとなっています。
焼きたてピザを食べながら、農林課の亀岡さんとの農業談義で盛り上がった後は美しく手入れされた圃場を見学しました。
メンバーからは「全然時間が足りない!」の声もあがり、まだまだ見たい場所、聞きたいお話山積みのなか、フィールドワークは一旦終了し、一同は午後からのワークショップ会場である、えんぱーくを目指します。
半日という短い時間ではありましたが、ただ観光で周るだけでは見えてこない、現場のリアルを知ることの面白さと重要性を感じたとても有意義な時間となりました。
お話を聞かせて下さった青栁さん、亀岡さん、本当にありがとうございました!