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塩尻で商品開発の副業にチャレンジ。51歳・未経験でしたが、すんなり入っていけました。

塩尻に住んでいないけれども、関係人口として塩尻で活動している人をクローズアップする「のりしおな人」。
第1回目は、「複活」という副業マッチングプログラムを利用して、51歳のときに、塩尻市の大沼製作所で副業を始めた甲守弘さんにお伺いしました。「塩尻にかかわったおかげで、自分に少し自信が持てるようになりました」と甲さん。どんな経験をしたのでしょうか。(取材日:2021年12月22日)。

【プロフィール】
かぶと・もりひろ
1969年兵庫県生まれ。京都外国語大学外国語学部英米語学科卒業後、1993年から運輸系企業に勤務し、運送、予約、営業、IT企画を担当。現在は総務を担当。社内外の地域創生プログラムに参加経験あり。

「複活」にエントリーして、市内の金属加工会社で副業

ーー塩尻でどのような活動をされているのか、教えてください。

2021年の2月から、市内にある大沼製作所で副業をしています。報酬をいただいていないので、副業というよりプロボノですね。

大沼製作所はスマホや自動車などの金属部品の精密加工を手がける会社です。下請けや孫請けをおこなってきたのですが、取締役の大沼真弓さんは「私なりの商品をつくりたい」と長年考えていました。
そこで「複活」という副業マッチングプログラムを活用して、副業人材と一緒に新しいことを始めようと考えたそうです。

その「複活」というプログラムを私が見つけて、応募して提案書を出したところ、運良く採用していただきました。

「おもろい人がいる」と塩尻に興味を持つ

ーー甲さんはそれまで塩尻とかかわりがあったのですか?

いえ、縁もゆかりもありませんでした。

塩尻のことを意識し始めたのは、私が出場したあるイベントに、塩尻市役所の山田崇さんも出場されていたことです。
「この人おもろいな。チャンスがあったら、このおもろい人がいる塩尻にかかわりたいな」と思っていたところに、「複活」というプログラムを見つけまして。
自分を変える良いきっかけになると思い、応募してみたのです。

「複活」に応募した背景には、43歳の時に脳卒中で倒れたこともあります。幸いリハビリをして回復できたのですが、人生が終わっていたかもしれない経験をしたことで、「死ぬ時に『あれをやっておけばよかった』と後悔するのは嫌。これからはピンときたら理屈抜きにやってみよう」と考えを改めました。

複活に応募するのは不安もありました。私は新卒で入った大企業で30年近く総合職をしてきたのですが、専門スキルはありません。
「そんな自分が、他の会社で何か役に立てることなんてあるのだろうか?」という漠然とした不安を抱いていたのです。
しかし、「チャレンジしなければ後悔する」「絶対何かおもろいはずや」という思いが勝り、思い切って応募してみました。

オンラインだけで新商品開発にチャレンジ

ーー大沼製作所の副業は、具体的にどのように進められているのですか?

副業メンバーは私以外にもいまして、ぬまっち(※大沼製作所の取締役・大沼真弓さんのニックネーム)を含めて8人で、「チームNUMACCI」というプロジェクトチームを結成しました。

そのメンバーと、毎週木曜日の20時から21時半まで、オンラインでミーティングをおこなっています。これまでに38回のミーティングを重ねてきました。

当初、ぬまっちのやりたいことは漠然としていたのですが、話を聞くうちに、「私なりのものをつくってみたい」という熱い思いを持っていることが伝わってきまして。
その思いにチーム全員が共感し、新商品の開発をすることになりました。

「こういう商品が売れるのでは?」「こんなデザインが良いかも?」とチーム全員でディスカッションした結果、第1弾の商品は「箸置き」に決まりました。
メンバーの一人であるデザイナーさんがデザインし、ぬまっちが試作して、メンバーに実物を送って意見を聞く、という流れで進め、2022年の春には発表できるまでにこぎつけました。ここまでの作業はすべてオンラインです。

ちなみに、リアルなぬまっちとはまだ一回もお会いしたことがなく、「ほんまに会えませんね」と毎回漫才師の挨拶のように話しているのですが、もはや他人の気がしません。
本当にお会いした時に、「はじめまして」と言うんでしょうか(笑)。楽しみですね。

▼「チームNUMACCI」で制作したWebページ

「こんな考え方があるのか」「そんな世界があるんや」の連続

ーー大沼製作所で副業をおこなってみて良かったことは何でしょうか?

まずは、素敵な仲間たちと出会えたことです。

チームNUMACCIには、ぬまっちのような金属加工会社の経営者の他、デザイナーやシステムエンジニア、人材会社のコーディネーターなど、多様な職種の方が集まっています。
そうした、本業では交わらない人たちと話すことで、「ああ、こんな考え方があるんだな」「そんな世界があるんや」と毎回新たな発見をさせてもらっています。それに純粋に感動できる自分ってかわいいなと(笑)。
本業に直接役立っているかどうかはわかりませんが、少なくとも自分の感性は磨かれていると思います。

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履歴書に書けないスキルを持っていることに気づく

あとは、自分に少し自信がついたことです。

繰り返しになりますが、それまでは自分が今の会社以外で本当にお役に立てるのか、まったく自信がありませんでした。しかし、実際に副業をしてみてわかったのは、専門スキルがなくても、「履歴書に書けないスキル」の部分で貢献できることです。

最初の方に、「僕、何をしたらいいんですかね?」とコーディネーターの横山さんに相談したところ、「甲さんは司会をすると良いのでは?」とアドバイスを受けました。
最初は「えっ? 自分が?」と不思議な感じがしましたが、周りの人は客観的に自分のことを見てくれているから、本当に言う通りかもしれない、と思いました。

以来、心がけたのは、オンラインミーティングの雰囲気づくりをすることです。リアルで会ったことがない者同士がオンラインだけで議論すると、仲違いをして空中分解することも起こる可能性もあります。それを防ぐには毎回、「ミーティングに出て楽しかったな」と思ってもらえるような雰囲気をつくろうと考えました。

具体的には、とりあえずちょっと早めに入っておいて、入ってきた人に「最近どうです?」と話しかけてざっくばらんに近況を話してもらう。ツッコミたくなるZoomの背景を毎回用意しておく。ちょっと飽きたかなと思ったら、「いやー、和みますね」などといってYouTubeで焚き火の映像を流す……。
大したことではないのですが、その積み重ねによって、皆が素の自分を出しやすいのではないかと。要は「心理的安全性」を生み出そうと思ったのですね。

まぁ、空回りするときもあるんですが(笑)、「甲さんに司会を任せて良かった」と言われることがたまにあるので、「専門性がなくても、このような形で貢献できることがある」と思いました。
今では、この経験を、本業のミーティングでも応用しています。心理的安全性のセミナーにも参加するようになりました。

ドキドキプルプルしながら始めましたが、ここまでとても貴重なジャーニーだったと感じています。
無茶だと思うことも、やってみたら無茶ではないことも多いんだな、と体感させてくれた体験でした。

今後もNUMACCIを続けたい。他の活動もスタート

ーー今後は塩尻とどのようにかかわろうとお考えですか?

まもなく大沼製作所の新製品ができますが、今後も商品開発を続けたいとのことですので、引き続きかかわってみたいですね。

あと、複活をきっかけに、「違うかかわり方もしたら面白いんちゃうか」と思い、塩尻CxOLabにも参加するようになりました。木曽平沢のプロジェクトの仕様書を作成したり、交流会に参加したりしています。また、年明けには、大学生を受け入れてワークショップをおこなうと聞き、そこにもお手伝いとしてかかわらせていただくことになりました。塩尻には面白いことがたくさんありますね。

塩尻には、他の地域の人もスーッと入っていける

ーー結びに、塩尻にまだかかわっていない方にメッセージをお願いします。

塩尻の副業にかかわって思ったのは、他の地域の人もスーッとすんなり入っていけるような雰囲気があることです。
私は、他の地域にもかかわらせていただいているのですが、塩尻には、私独特のジグソーパズルのピースがピタッとはまりそうな隙間があって、いろんなかかわり方ができそうだなと感じています。土地柄でもあるし、かかわった皆さんの力でもあると思うのですが、おもろい人が集まる環境や仕掛けがあるな、と思いました。

年齢を重ねてくると、なかなか新しいことを始めるのがおっくうになりますが、ピンと来ることがあったら、深く考えずに始めてみると良いと思います。ピンと来るということは、その理由が説明できなくても、確実にそのことに自分が惹かれていて、新しい自分を発見できるチャンス。塩尻にかかわって、私はそれを強く実感しています。

(取材・構成/杉山直隆)



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