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考古ボーイの原風景

≪塩尻アーティスト・イン・レジデンス特集≫
ANAによるアートプロジェクトANA meets ART "COM"の一環として、2020年より行われている塩尻アーティスト・イン・レジデンス(塩尻AIR)。
この特集記事では、2021年、塩尻に滞在しながら制作活動やリサーチ活動を行った4人のアーティストと地域の関係者にインタビューを行い、アート×地域の未来の関係性を探りました。

2021年度 ANA meets ART “COM”
https://www.ana.co.jp/ja/jp/domestic/promotions/ana_art_com/shiojiri/
Instagaram:  https://www.instagram.com/ana_art_com/

塩尻市平出博物館の館長である小松学さん。
子供のころに身近にあった塩尻の環境、そしてそれに対する興味がライフワークとなった。平出博物館の取り組みがも広く人々に伝わるように奮闘する。

―― 小松さんはどのような経緯で平出博物館の館長を務めることになったのでしょうか?

(小松さん)大学を卒業後、市役所に務めることになりました。さまざまな課に移動がありましたが、学芸員の資格をもっているため、この平出博物館での勤務を希望していました。
農林課、博物館、社会教育課と移動がありましたが、かれこれ20年以上この博物館で働いています。

―― そもそもどうして土器や土偶に興味をもったのですか?

(小松さん)小さいころから、土器や遺跡が身近にありました。畑から鏃が出てきたりして、拾えたりしたのです。そこから昔の人の生活や生活の道具に興味をもち、各地に出かけて土器のかけらなどを拾ったりしました。

「考古ボーイ」だったのです。当時、そのような興味を持った人をそのように呼びました。僕の世代が、最後の「考古ボーイ」になるのかもしれないな。

今となっては、鏃などを拾えるような場所がありません。子供のころの個人的な経験が、答えが出ていないものの可能性を探る作業、大学で考古学を勉強することへと繋がりました。

―― どのようにアーティストの箕浦さんとのコラボレーションが始まったのでしょうか?

(小松さん)一番はじめは、アーティストが作品作りを行い、その作品の展示をするための会場として使用したいと市役所から話が来たのです。その期間は空いているから大丈夫ですと返事をしました。
箕浦さんがこの周辺の環境からインスピレーションを得て作品作りをしたいということで、ありがたいなと思いました。

―― 箕浦さんは、この平出遺跡公園内で野焼きをして土器作品を作ったのですよね。

(小松さん)遺跡公園内で野焼きをするのは初めてではなかったのですが、アーティストが作品を作るということで、彼の感性から出てくる造形が面白かったです。自分達が作ると、実際にある土偶から模倣したかたちになることが多い。その違いが面白かったですね。

アーティストにとっては、実際にできた作品だけではなく、そうやって野焼きで焼いてみるという制作を体験するというプロセス自体が良かったのではとも思います。野焼きの過程で、多く割れてしまったものもあります。半分割れることを前提にしながらも、土を違う種類にしたりして、技術的な面で完成度を高めるアドバイスは次回以降できるのかなと思います。

平出博物館が扱う、歴史という文脈にアートという新しい風を入れることで、普段とは違う来館者が足を運んでくれるのも良かったです。何年か先になってしまうかもしれないけれど、また発表の場になるとよいという話を箕浦さんともしました。

―― 難しい部分はありましたか?

(小松さん)一番思ったことは、人々に知ってもらえていないということです。展示の際にも地元の新聞には取り上げてもらいましたが、それ以上の広がりを見せなかったのは残念です。
どうしたら、もっと多くの人に平出博物館という場をしってもらえるのか。インスタグラムを始めたり、ラインのスタンプも開発しようと動いています。

―― 現在の活動を教えてください。

(小松さん)現在は昭和29年に建てられたこの博物館の耐震性を高めると同時に、今後どのような博物館であれば、市民が利用しやすいものになるのかをアンケートをとって探っている最中です。
今年はさまざまな講演などのイベント、遺跡祭りやアドベンチャー教室もキャンセルになってしまいました。しかしこれから、どうしたら市民の方々に興味をもってもらえるのか、どのような博物館が求められているのかを考えています。形にはまらないワークショップもできたら良いと思います。

―― まちの皆さんに面白いと思ってもらえることはなかなか難しいですよね。どうしたら興味が湧くのでしょうか?

平出遺跡公園 縄文の村

(小松さん)生活の身近なところに入り込むことが大切だと思います。親子連れが気軽に足を運んでもらえる博物館になるとよいなと。
実際には、遠足や修学旅行で訪れる学生よりも、一般の来館者が多いんです。あそこにちょっと寄ってみよう〜と思われるようになるとよいなと思います。

―― 身近にあるものの中に楽しみを見出す感性は大切ですよね。小松さん自身がご自身の身近な環境の中に考古学を発見したように。

(小松さん)僕にとっては、自分の感性に訴えかけるものがアートです。波長が合うものと合わないものがあり、いろいろな物を見る中で自分に合ったものを探すことができますよね。

考古学は僕にとってライフワークですね。わからないことだらけな分野なので、自分の中で少しずつわかっていけるのが楽しいです。

▼交流したアーティスト:


小松 学
こまつ・まなぶ / 長野県塩尻市生まれ。
國學院大學文学部史学科卒業後、塩尻市役所入庁。
平出博物館の館長。

塩尻市平出博物館  https://hiraide.shiojiri.com/

(取材・構成/ヒロイ クミ)

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