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“孤独”解消を目指して。支えあう関係性をつくる実証実験カフェ

2024年7月8日に塩尻市大門にある市の総合施設「えんぱーく」1階に「ハピネスカフェ」がオープンしました。カフェのテーマは、日本の課題である“孤独”の解決。日本では孤独率がOECD加盟国で最も高くなっています。その解決方法としてあげられたのが、社会参画することで豊かさを生み出す“コレクティブ”の活性化です。

「コレクティブとは、まだ新しい概念。共通の目標を持った人々が協力するグループのことです。」と教えてくれたのは、オーナーを務める山田果凜さん。「“孤独”が課題となる日本で、参加者同士がお互いに支え合い、利他的につながることで、豊かな人生を実現することを目指しています。」と話します。

カフェは8月いっぱいまでの期間限定で開設され「カフェを拠点にしたコレクティブが、実現できるのか?」を検証する実証実験の場になります。

オープンから2日目に取材させていただき、実証実験をおこなう経緯や、オープン2日目で見えてきた課題感、これからの目標などについて伺いました。

【プロフィール】
やまだ・かりん
2001年兵庫県生まれ、タイ育ち。親の教育方針のもと、10歳からタイのコンケーンという田舎町(当時日本住人ゼロ)へ母と弟3人と移住。タイの公立進学中学校に受験し入学したが、「なんのために学ぶのか・なんのために生きるのか」がわからなくなり二年間不登校・引きこもりを経験する。そんな時に連れて行かれた父のインド出張にて、5ヶ国語話す7歳の物乞いの少年に出会い求めていた答えをを知る。少年との出会いをきっかけに14歳からボランティア活動を始め、継続性を求め19歳で社会企業を設立。物乞いの少年との出会いとは別に、自身の両親の離婚と家庭崩壊の経験が本気で活動を続ける理由の一つにある。子供の未来がいかに簡単に、子供の力の及ばない世界で握りつぶされてしまうのかを当事者として経験する。共感を軸に仲間を集め、「世界中の子供達が自由に未来を描ける社会」を目指す。同世代の仲間と出会うために、事業と学業を続けながら、日本中で講演活動を行う。

ルワンダでの活動の様子

"コレクティブ”のパワーを先進国でも発揮

―――カフェについて教えてください。

孤独を解決するために、共通の目標を持った人々が協力し社会参画するグループ「コレクティブ」(が自発的に生まれることを目指しています。ターゲットは年配の女性です。

「社会貢献」「コレクティブ」なんて言葉を使ってしまうと、一気に立ち寄るハードルが上がってしまいますので、まずは「友達と楽しい明日を創るカフェ」をキャッチコピーに、「お友達とこんなことがしたい!」を叶えるカフェを目指します。

塩尻市市民交流センター「えんぱーく」の1階にオープンしたHappiness Cafe

――――なぜ、孤独解消の実証実験がおこなわれることになったのでしょうか?

このプロジェクトは、インドの社会企業である「Drishtee(ドリシテ)」が主催しています。ドリシテはインドの貧困解決を目指しているなか「果たしてお金に困ってない先進国の人たちはハッピーなのだろうか?」という問いを立て、先進国において“孤独”が深刻化していることに着目しました。

日本は、OECD加盟国のなかで社会的孤立者の割合が1位。一人暮らしも多く、友人や同僚、地域のコミュニティなどとの交流が「ほとんど無い・無い」と答えた人の割合が、20ヶ国中トップでした。生活がすぐに脅かされるわけではないものの「幸せですか」と聞かれて、即答に「はい」と言えない方がいます。孤独は肥満よりも体に良くない影響をもたらすとも言われていて、孤独・孤立対策が内閣府で実施されるぐらい課題とされています。しかし、なかなか手を打てていないのが現状です。

そこで、ドリシテはインド支援で感じた“コレクティブ”のパワーを活かして、先進国における孤独解消を目指すこととなりました。

――――“コレクティブ”のパワーとはどのようなものでしょうか?

ドリシテは、インド女性の5人グループをつくり、少額投資する「マイクロファイナンス」をおこなっています。

この5人集まったときのパワーがすごいんです。5人みんなで協力して、相互作用で豊かになることを目指すチームになります。マイクロファイナンスによって成功した女性起業家たちは、お金を増やしたのち、村に学校を建てたり、村の女性がもっと働けるようにミシンを買ったりと、自分たちで地域の問題を解決しようと動き出している事例が見られます。

一方で先進国では核家族も多く、近所の方とも交流がないので、すべて個人プレーのようになっていて、協力して活動する機会がなかなかありません。それはとても、もったいないことではないでしょうか?

インドでの活動の様子

日本の課題である“孤独”解消は、お金で買えないもの

――――ドリシテの活動に山田さんが共感できたのはなぜでしょうか?

まず高校生のとき、老人ホームのボランティア活動で感じたことがあります。私が帰るときにいつもおばあちゃんとおじいちゃんが大泣きするんですよ。「孫が会いにきてくれないから寂しい。次会えるかわからない」と。「寂しい」がすごく聞こえてくる。そこはお金に余裕のある方が入所する老人ホームでしたが、寂しくない気持ちはお金で買えないのだなと思いました。

今度は大学生になったとき。大学の学費を払えるぐらい会社の売り上げがまだ立っていなかったので、毎日老人ホームで夜勤をしていたんです。生活保護を受けている方が入居されている老人ホームで、居場所がなくて入られた方や、亡くなられるときにも誰も引き取りに来ないことが多くありました。

これらの経験から「日本人の生き方はこれでいいのか」と、とても疑問に思っていました。「日本人として、どこかのタイミングで孤独やご年配の方へのサポートができたら」と感じていたところ、今回お話をいただきました。

このカフェは利益を出すことは難しく赤字運営。日本の孤独問題の解消にインドの企業が投資して力を入れてくれていることに、日本人としてありがたいと思っています。

人のつながりが助けに。塩尻にきて3ヶ月でオープン。

―――山田さんはなぜこの活動に参加することとなったのでしょうか?

私は株式会社Familicという会社の事業として、売り上げの5%を途上国のNPOに寄付する仕事を展開しています。去年の9月にインドに行った際、ドリシテに企業訪問させてもらって代表者と出会いました。先述の思いを伺い「一緒にやらないか」とお声がけいただきました。

株式会社Familicでは沖縄と神戸で「Tobira Cafe」を運営

候補地としてあげられたのは、都会過ぎず田舎過ぎない地域。なかでもドリシテの代表者が塩尻に滞在したことがあり、自治体が先進的な活動をしているとして、塩尻が候補地としてあげられました。

その後、私がメインとして関わることに話が一変し「現地に住まなきゃ進まない」と言われて、2024年4月から塩尻に滞在することに。「スナバに行ったらわかる」と言われて何もわからない状態でシビック・イノベーション拠点「スナバ」に行きました。そこから今住んでいるシェアハウス「en.to」や、えんぱーくの貸し店舗の管理者へとつながっていき、オープンまで漕ぎ着けることができました。

―――この3ヶ月の準備期間で、なにもない状態からカフェオープンまで至ったのですね。

塩尻はキーパーソンに会えるスピード感がありますね。例えばスナバ。「こういうカフェをやりたい」と相談したら、いろんな人からのフィードバックが早いので、挑戦しやすい環境だと思いました。紹介がつながり3人目で、この場所を借りるところまで手筈が整いました。

シェアハウスの「en.to」での出会いにも感謝しています。「en.to」には人を応援する文化があると思います。オープンしてさっそくシェアメイトがお客さんとして、年配の女性と喋りにきてくれました。

塩尻での滞在場所シェアハウス「en.to」ではたくさんの人との出会いが

「やりたい」の背中を押すカフェ。興味関心をマッチング

――――活動期間は2ヶ月間。今後の目標を教えてください。

5〜12人のコレクティブを3つつくれたら嬉しいです。日本とインドの前提が違うなかで、どういう設計をしたら自発的で利他的なコレクティブにつなげていけるのか。実際にやりながら挑戦してみようと思っています。

そして、この実証実験でよっぽどNGがない限り、今後は市内のほかの店舗に移転させていきたいとドリシテとしては考えています。これをモデルケースとして、ほかの行政での展開も目標として掲げています。

―――例えば編み物が趣味な方がいて、お店を出したり、誰かに作ってあげたりすると、社会参画になってきますよね?

そうですね。そこまでいかなくても「教えてあげる」「一緒にやろう」と誘うだけでもいいのです。

カフェとして、それらが誰かに矯正されるのではなく、自発的に生まれていくように背中を押す場でありたいと思います。「1人で何かをするのは難しいけれど何かしたい」「寂しい」「役に立ちたい」という思いがある方が「ここに来たら何かできるかもしれない」と期待を持てる交流の場にもなりたいですね。

機能としては、興味関心の似ている方たちをマッチングすることも大切です。誰が何に困っていて、誰が何をやりたいのかをスタッフがデータとして持っていて、5人集まったら声をかけるという機能を果たしたいと思います。

だれもが気軽に訪れ、「ここに来たら何かできるかもしれない」と期待を持てる交流の場を目指す

オープン2日目の気づき。まずは友達づくりから

――――オープン2日目ですが、気づきはありましたか?

オープン2日目で感じたのは、「自分で何かをやってみよう」と自発的な活動を促す難しさです。どうしたら育まれるのか頭を抱えています。

インドでは「アバンダンス・ツリー」と呼ばれる「豊かさがなる木」をここでも導入しています。やりたいことを紙に書いて、木にくくりつけることで木を育てていくのです。しかし、実際に書いてもらおうとしても「やりたいものが、まったくない」「考えたことがない」という方が多いのです。引き出そうとしても「私なんて」という謙遜しかでてこない。

お話を聞いてみると「他人様に迷惑をかけてはいけない」という気持ちが強すぎる方が多いと感じました。しかし、持ちつ持たれつだと思うんですよね。お互い様に役に立ったとき、幸福度が高くなると考えています。必要とされることで孤独はなくなります。お互いに必要とされたいものです。

やりたいことを書いた紙をつるした「アバンダンス・ツリー(=豊かさがなる木)」

――――難しいですね。初期フェーズの目標は見えてきましたか?

まずは、お友達をたくさんつくってもらうところからだと思います。「アバンダンスツリー」も1人で書いていた方は、本当にしんどそうでした。しかし4人集まると「あれがいいんじゃない」「これはどう?」みたいな会話があって書きやすそうだったのが印象的でした。「行けば友達に会える場所」にすることが必要かもしれません。

また、孤独感が一番解消されるタイミングは、みんなで食卓を囲うときとも言われていますので、お喋り会だけでもすごく効果はあると思います。だから、もしおうちで1人でご飯を食べている方がいるのなら、一緒に食べたいですね。

そして、困っていることも「こうしたらいいじゃん」みたいな励ましあう会話が生まれれば、コレクティブが生まれる兆しになりそうです。

(取材・構成/竹中 唯)

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