自分ごとに思えた、地域の仕事。事業パートナーとして携わった売店リニューアル
塩尻駅前にある売店が、昨年リニューアルオープンしました。塩尻の特産品が並ぶ店内の陳列方法を、大きく見直しています。
塩尻の「塩尻市・関係人口創出事業」の副業人材として指揮したのは、普段は東京で働くデザイナー・アートディレクターのサワノエミさん。
「オンラインミーティング中も、スタッフの方が什器のサイズをメジャーで測ってくれたり、その場で決定していただいたりと、とにかく話が早かった。やりやすかったです。」と話します。
「のりしおな人」第5回は「はじめて自分ごとで仕事をする感覚を持つことができた」と言うほど塩尻に愛着を持っていただいた、サワノエミさんにお話を伺いました。(取材日:2022年4月19日)
【プロフィール】
サワノ・エミ
百貨店、飲食店、国内プロダクト企業などでデザイナー、アートディレクターとして、広告、販促ツール、家電等商品のデザイン、プランニングに携わる。現在はフリーランスとして、商品・ブランド開発、販促までのトータルデザイン及びディレクション、中小企業へのノウハウ提供、アドバイザー・コンサル業務も行なう。
副業期間は3ヶ月。スピードのある決断・実行がやりやすかった
ーー今回、観光協会が運営する売店を、リニューアルオープンしました。どのような改善をされたのでしょうか?
課題は「コロナ禍の影響で売上が半減してしまった売店を再生する」こと。そして「塩尻のモノ・コトの魅力を発信する情報発信基地となる」ため、基盤を作ることです。
まずは売上につなげるために、商品が見やすいように陳列棚をレイアウト変更しました。塩尻駅は、電車の乗り換え地点として使われることが多いので、どんなにいい商品があったとしても、宝探しのように探しだす時間的余裕はありません。商品が混雑している状態だったので、短時間でも手に取りやすいように、整理が必要だと思いました。
そのために、未分類だった商品カテゴリーを客観的に見直しました。たとえば「ふりかけ」コーナーがあって、違うところに「なめたけ」が置いてあるとします。これらは、別々の商品ではありますが「ご飯のお供」としてひとつのカテゴリーにまとめられます。お客さんにとっては、目的に合わせて置いてある方が選びやすいですよね。
そのほかジャムやそばなどをグローサリーとしてまとめたり、お菓子でもフルーツ系やナッツ系でテイストを分けたりと、10のカテゴリーに細分化して陳列しました。
また、お客さんに売店内にとどまってもらえるように、什器や商品の配置を変えています。これまでの売店は、奥のトイレへの導線になってしまっている感じがあって、お客さんに滞留してもらえるのかが気になりました。そこで、売店に入ってすぐの目立つ場所に「スタッフいち推しのお土産コーナー」のワゴンを置いて滞留導線を設けることによって、商品に注目してもらえるようにしました。
あとは、駅前の人通りが少ないので、トイレの利用客もお客さんとして取り込もうと、「オリジナルブレンドコーヒーで一休みしていかれませんか?」とトイレにPOPを貼ることを提案しました。倉科さんは私の提案をすぐ試してくださると同時に、ひと工夫して「ワインカステラとコーヒーで、一服していかれませんか?」と「ワインカステラ」も加えて呼びかけてくれました。しばらくして「POP見たわよ」と言ってコーヒーを注文してくれたお客さんが現れたと伺いました。
ーー反響があったリニューアルですが、副業期間はたったの3ヶ月でした。どのように進められたのでしょうか。
現地に行くのは月1回。メールや写真のやり取りや、週1回のオンラインミーティングで話を進めました。
観光協会の鳥羽さんと倉科さんが担当してくださったのですが、ミーティング中に分からないことがあると、ふたりともササーッと画面の前からいなくなって、売店の様子を確認してきてくれるんです。パソコンの前に商品を持って来て、画面越しに見せてくださったこともありました。
「後で確認してメールでお返事……」ではなく、その場で情報をいただけるので、解決策をその場で提示できる。話が早く進むんですよね。配置を考えるために店内模型を作っていたので、それをもとに進行しながら、プランを考えて実行に移していきました。
「事業パートナー」として塩尻の将来を見据える
ーー商品と什器の配置を検討するために、サワノさんがメジャーを持って店内のいろんなところを測定していた姿が印象的でした。そもそも、なぜ副業人材として参加されたのでしょうか?
コロナ禍になって、自分の仕事について見つめ直したときに、地域の活性化にかかわりたいと思いました。リモートワークがメインになって、時間にも余裕が出てきましたし、東京にいながらも、遠方と密にやりとりができるようになったことが追い風です。
さっそく検索してみると、塩尻がいちばんにヒットしたんです。惹かれたのが「事業パートナー」を募集していること。下請けではなく、手を取り合って一緒に推進する「事業パートナー」として迎える意識に感激しました。
あと私は、そばとワインが大好きなんです。「これは、もう塩尻から呼ばれているんじゃないか」と思って応募しました。
ーー正直なところ、普段のお仕事よりも報酬は低めです。気にはなりませんでしたか?
気にはなりました(笑)。しかし、副業人材の募集要項に添えられていた“仕様書”を読んだところ、突き動かされたんです。
仕様書とはプロジェクト方針を決めたもの。観光協会としては「売上を上げたい」という直近の希望がありますが、その先の未来には「地域いちばんの情報発信基地となって人が集まる場所にしたい、その入り口が売店だ」という潜在意識があると、記されていました。
私は仕事の際、クライアントが言葉にしきれていない潜在的な要望や課題を明確にするためのヒアリングを大切にしています。それがすでに仕様書に記されていたことで「これをカタチにしたい」と思えたんです。
あとは、私の仕事への取り組み方を知っていただくために、今回のプロジェクトで見える形の成果として伝えられると思いました。
▼仕様書について詳しくはこちらをご参照ください:
自分ごとに思えた仕事。地域と同じペースで歩む
ーー予算が少ないところで、工夫した点もあるそうですね。
新しく什器の導入を検討したのですが、店舗用の什器は、一般的に何十万もして高価なものです。鳥羽さんに相談したところ、DIYで対応することになりました。塩尻にあるカインズホームに行って家庭用の棚を購入し、キャスターを付けて活用しました。また、家庭用のテーブルも、商品の耐荷重に気をつけながら活用しています。
そのほか、棚に布を巻いて店内の色の統一感を図ったり、地元木材をディスプレイに検討してみたり……。おふたりから「今、手元にあるもので工夫してみる、最大限に活かす」という精神性を感じたんですね。
塩尻はかつて「塩が運ばれる最終地点」でしたから、資材が限られていたはず。もしかしたら、その歴史から培われているのかも……なんて考えちゃいますね。
ーー歴史にまで思いを馳せたんですね。参加してみて、サワノさんが得られたものはありましたでしょうか?
この前、同じく塩尻の関係人口の方がおっしゃっていたのが「地域に関わると、それが自分ごとになる」という感覚を持てたということ。不思議なんですけど、私も同じ気持ちになったんです。いつもはデザイナーとして仕事をしている意識なのですが、今回は “私個人” として仕事をしている意識なんです。
一緒に手を動かして「どうなったか」「これではうまくいかなかった」など、おふたりに情報共有してもらって「じゃあ次これやってみようか」と試行錯誤していくなかで、得られた意識です。なぜそうなったのか、わかりません。こんな気持ちになるなんて、想像してもいませんでした。
ーーそこまで塩尻に愛着を持ってもらえたということなのでしょうか……。とはいえ、塩尻を自分ごとに考えてもらえるのは嬉しいです。サワノさんの、今後の塩尻との関係性はどうなっていくのでしょうか?
売店にこれからも関わりたい気持ちもあり、現在、“売店リニューアルの続き“を提案しています。背景にあるのは、愛着もありますが、それ以上に塩尻の可能性を感じられたからです。
今まで、地域の新しいチャレンジをサポートする際、いざ実行に移すタイミングで、動きが停滞してしまう光景を何度も目にしたことがあります。これまでやってきたことを変えたり、一歩踏み出すことに、戸惑いや、不安があるのは当然だと思いますが、それではもったいない。地域的な取り組みとして、変わっていく勇気があれば、成長する機会があります。
観光協会のおふたりは「サワノさんがプロジェクトを引っ張ってくれた」とおっしゃっていますけど、それは違います。手を取り合って、同じペースで歩めたからこそ、短期間であっても売り場のリニューアルが出来たんだと思います。
▼~塩尻市観光センター売店 リバイバルプロジェクト~ 担当者へのインタビュー記事はこちら:
(取材・構成/竹中 唯)
塩尻市では、地方副業に興味がある人材と、副業人材を活用して事業を推進させたい事業者・団体とのマッチングの機会創出に力を入れています。
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